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【長編洒落怖】鬼伝説の山

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結局、黒衣の男の正体もわたしの素性も何もわからなかった。
ただ、俺が幼い頃から共にしてきたこの森には、確かにここではないどこか別の世界へ通じる道があったのだろう。
元気になった様子の祖母がこっちじゃ! と叫んでいるのが見えた。
森の前では消防車を呼ぶ声と群衆ができていた。
俺が祖母のところまで到着し、Uを横にさせる。
そして、これほど騒ぎになっているのにいびきをかいて眠りこけているUと、事情を問いつめずに俺の身を
心配してくれた祖母と共に、燃える山を見つめた。
「えらいことになった」と祖母。
「ごめん」
「会ったのじゃな、鬼に」
「たぶんそうだけど、全然想像してたのと違ったよ」
「鬼といっても伝説通りではない。B山に潜む鬼は別の世界から来た者じゃ」
「ばあちゃん、もしかして知っているの?」
俺は思わず声を荒げた。
「んや、詳しいことはわからぬ。だがそう確信できる。若かりし頃ワシは願ったのだ。だからアレが来た」
俺にはよく理解できなかった。

「でも、おかげで俺は少し頭が覚めたと思う」
祖母はうん、うんと頷いていた。
「……あの魔法陣じゃが」
「あ、ごめん、勝手に」
倉に描いた魔法陣をそのままにしてあったことを俺は思いだした。
「いいんじゃ、あれは役にたったか?」
俺はしばし考え、あごをひいた。
「でもあの本……って」
「あぁ確か、西洋を旅するのが好きじゃった父親からの土産物だったかの。ワシも恥ずかしながら、借りて読んでおったわ。
少し頼りない土産だと思ったが意外に役にたつ。だが、お前がこんなことになるのなら、もっと早くに教えておけばよかったなぁ、すまん」
俺は今でもこの祖母の言葉を覚えている。
もしかしたら祖母は、あの黒衣の男が何者であるのかも含め、全て知っているのではないかと思ったが、聞かないようにした。
(その後事情があって、男の正体や道、化け物とわたしについての見当はついたが、
祖母が亡くなったあとだったこともあり、真相はわからない。そして祖母のいった、こんなことになるのならの意味が
代償についてだったのだとしたら、人を呪った俺にとっては適切な報いだと思っている)

俺はもう一度、真っ赤に染まるB山を見やった。
ふと、入り口に黒い犬が鎮座していることに気が付いた。
祖母や他の住民には犬が見えていないようで、もくもくと上がる分厚い煙を眺めていた。
犬は変わらずこちらを見据えている。
直後、俺は声を聴いた。
頭の中になだれ込んでくるような感覚だった。
俺は直感的にあの犬の声だと思った。確かなことは、俺だけに対して発していたことだった。
そう、奴は、こういったんだ。

「 また 迎えに こよう 」

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