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【師匠シリーズ】天使

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712 :天使   ◆oJUBn2VTGE:2008/04/30(水) 23:02:27 ID:NrJoj9WI0
「太陽は。太陽のカードは、ケルト十字の2枚目に出ていたんだな」
答えない。
ケルト十字スプレッドにおける2枚目のカードは1枚目の上に交差されるように置かれる。
それはやがて周囲に展開されるカードの並びの中で、十字架の真ん中の位置となる。
表すものは「障害となるもの」。
大アルカナ22枚のうちの19番目のカードである太陽(The Sun)は、正位置ならば《創造》《幸福》《誕生》etc. 逆位置ならば《破局》《不安》《別離》etc.
しかしこの場合、陽子という太陽を暗示させる名前そのものを指している。
少なくとも、島崎いずみ自身にとっては。
彼女の悩みの根源を成す「障害」として。
そしていつかの私に対する警告。
「恨みはなるべく買わないほうがいい」
というあれは、すべてを見透かした上での言葉だったのか。
「彼女の手にした刃物は、結局自分に向かった。それは彼女自身の選択よ」
間崎京子の口から音楽のように言葉が滑り出した。
「おまえは何様なんだ」
周囲から、固唾を飲んでこのやりとりを注視している無数の気配を感じる。
誰も表立ってこちらを見てはいない。
しかしその無数の悪意ある視線は、確実に私の心を削り取っていった。
「あなたも、まだあの子を救える気でいるなんて、おめでたいわね」
ヨーコのことか。
なぜそんなことをこいつに言われなくてはならない。
「7つの星に対応する数多くの象徴の中で、7つの大罪がどういう配置になっているかご存知?」
表情はまったく変えていないのに、微笑が、嘲笑に変わった気がした。
その時私は、この女をはじめて恐ろしいと思った。

713 :天使 ラスト   ◆oJUBn2VTGE:2008/04/30(水) 23:04:37 ID:NrJoj9WI0
「水星は大食。金星は欲情。火星は憤怒。木星は傲慢。土星は怠惰。月は嫉妬。それから太陽は――」
芝居じみた動きで彼女は指をひとつ、ひとつと折り、7番目となった左の人差し指をゆっくりと折り畳みながら言った。
「強欲」
その言葉と同時に、私は彼女の机を両手で強く叩いた。
周囲がビクリとして、一瞬静かになる。
そこに、冷ややかな言葉が降って来る。
「ねえ、わかるでしょう。彼女は彼女自身の星からは逃れられないわ。この世界には、変わろうとする人間と、変わろうとしない人間しかいない。それはあなたのせいでも、わたしのせいでもない」
怒りだとか、悲しさだとか、悔しさだとか、そんな様々な感情が私の中で嵐のように渦巻いて、目の前にパチパチと輝く火花を発している。
私は唇を噛んで、この氷細工のような女を殴りたい気持ちを必死で抑えていた。
そんな私の姿を一見変わらぬ笑みで見据えながら、彼女は誘惑するような甘い囁きでこう言った。
「かわりに、わたしがあなたの友だちになってあげる」
それが、間崎京子との出会いだった。

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