「選ばれた死人を生き返らせるには、犠牲とする誰かに三日間歌を聞かせなきゃいけない。
あの子が初日から見せたいと言ったのはそのためよ。
歌は1時から2時、3時から4時の間でそれぞれ内容が変わり、各2回ずつ歌われる。
三日間で6つの内容の歌が、計12回歌われるというわけ。
さっきあなたが聞いたのは3つ目の歌ね。
6つ目12回目の最後の歌を聞かせた後、その人をあの水溜まりに突き落とすの。
はい上がってくるのはその人ではなく、選ばれた死人。
犠牲になった者は二度と帰ってこないわ。
そうやって、生きていた誰かの代わりに、死んだ誰かが戻ってくるのよ。
といっても、今の人達は、弔いのつもりで形だけ行う事がほとんど。
ここ何年かで本当に生き返らせようとしたのは今回だけ。というより、あの子だけといった方が正しいかもね。
あの子は母親に固執してる。何年経っても断ち切れないでいるの。
母親が選ばれたと分かった時から、あなたの話が出てたわ。
どうしてあなたにしたのかは分からないけど、あの子はあなたを犠牲にして、母親を生き返らせるつもりだった。
本来なら、二日目に来たという時点で、これは成立しないはずだったのよ。三日間のどれが欠けてもダメだからね。
でも、雨が降ったのがいけなかったわね。
歌も含め、これらの事は『かえるのうた』って呼ばれてるわ。
元は、昔から祀られている何かに関係するものなの。
死人を生き返らせるなんてぐらいだから、霊とかそんな次元じゃないのかもね。
その何かは雨を好むって伝えられてる。
三日間のうち、一日でも雨が降っている中でかえるのうたを行うと…(ここだけはぐらかしてました)
とにかく、昨日雨が降った事で、あなたが一日目にいなかったというのは、意味を成さなくなったの。
本当なら、事が済んだ三日目に現われるはずのあの子の母親が、昨日の時点であの水溜まりにいたからね。
あなたが最初に見た時も、さっきの歌の時も、水溜まりからじっとあなたを見つめていたのよ。
お母さんが準備してるっていうのは、そういう意味だったの。
たぶん、これからもあの子は諦めないわね。またいつか選ばれるのを待ち続ける。
だから、あの家の水溜まりの穴が無くなる事はないでしょうね」
ここでかえるのうたの話は終わりました。
話を聞いた事である疑問が浮かびましたが、聞けませんでした。
もしそうだったら…正気でいられないかもしれない。そう思ったからです。
この夜は叔母さんの家に泊めてもらい、朝になって私の家まで送ってもらいました。
別れる際、叔母さんに言われました。
「明日から新年だけど、その一年間は雨に濡れないようにしなさい。雨の日は外出自体控えたほうがいいわ。
生活は大変になるでしょうけど、必ず守ってね。
その一年を過ぎれば、もう大丈夫だから。
もし、どうしても何か心配な事があったら、私のところにおいで。
怖い思いさせて本当にごめんね。元気でね」
休みが明けた後、しばらく先輩は会社に出てきませんでした。
『お母さんが亡くなった』と連絡してきたそうです。
私はその年に会社を辞めました。
叔母さんに忠告されたとおり、雨の日には一切外に出なかったので、続けられなかったんです。
突然雨が降るかもわからないので、その一年間は実家で引きこもりでした。
なお、私が辞めるのと入れ違いで先輩は復帰なされて、今もその会社に勤めています。
とても会う気にはなれませんでした。
今、私は普通に暮らしてます。