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【長編洒落怖】かえるのうた

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そうこうしている内に1時が近付き、叔母さんに2階へ行くように促されました。
「一緒に来てくれませんか」とお願いしましたが、
「私はここにいるから、歌が終わったらすぐに降りてらっしゃい。
 くれぐれもさっき言ったことをちゃんと守るようにね」
が答えでした。
「さぁ…」と背中を押され、逃げ出したい気持ちで2階へ上がり、昼間にいた部屋へ入りました。
でも、窓の外を見ようとする事が出来ず、ただうずくまって震えていました。
もうやだ。怖い。
それだけでした。

5分…10分…
どれくらいそうしてうずくまっていたかは覚えていません。
とても長い長い時間に思えました。
ふと、何かが聞こえてきている事に気付きました。
話し声?叫び声?
何かが聞こえる。
私は無意識に窓に近づき、外を見ました。
窓の外、あの水溜まりの周りに、いつのまにか大勢の人が集まっていました。
子供も大人も、男も女も。
十代ぐらいの子や、五~六歳ぐらいの子、熟年の方や高齢者の方…20人ぐらい、もっといたかもしれません。
その全員が、さっきまでずっと雨にでも打たれていたかのように、服も体もずぶ濡れでした。
ピクリとも動かず、全員が水溜まりを見つめています。
そして、何かを話している…?
怖さで固まったままその光景を見ていると、次第にはっきりと何かが聞こえてくるようになりました。
不気味に響くその声にすぐにでも耳を塞いでしまいたかったですが、叔母さんの言葉を信じ、必死で耐えていました。
やがて、それが何なのかがわかりました。
歌です。
叔母さんの言っていたとおり、確かに歌を歌っているように聞こえました。
何人もの声が入り交じり、気味の悪いメロディーで、ノイズのように頭に響いてくるのです。
何と言っているのか、聞こえたままの歌詞はこうでした。

かえれぬこはどこか
かえれぬこはいけのなか

かえれぬこはだれか
かえれぬこは○○○
(誰かの名前?)

かえるのこはどこか
かえるのこはいけのそと

かえるのこはだれか
かえるのこは○○○
(こっちは私の名前に聞こえた)

かえれぬこはどうしてる
かえれぬこはないている

かえるのこはどうしてる
かえるのこはないている

この歌詞が二度繰り返されました。
全員がずぶ濡れで、水溜まりを見つめたままで歌っていました。
誰も大きな声を出しているような感じには見えず、
私のいる部屋ともそれなりに距離があるはずなのに、その歌ははっきりと聞こえていました。
本当に例えようのない恐怖でした。
二度繰り返される間、ただがたがたと震えながらその光景を見つめ、その歌を聞き続けていました。


二度目の歌が終わった途端、静寂に包まれると同時に一人が顔を上げ、私の方を見ました。
それは満面の笑みを浮かべた先輩でした。
さっきまではあまりの恐怖で気付きませんでしたが、よく見ると先輩の父もそこにいました。
ただ一人、私を見上げ微笑んでいる先輩に、私は何の反応も示せませんでした。
しばらくそのままでいると突然そっぽを向き、どこかへ歩いていってしまいました。
すると、周りの人達も一斉に動きだし、ぞろぞろと先輩の後へ続いていきました。
終わったんだ…
私はガクンとその場に座り込み、茫然としていました。
早く叔母さんのとこに戻りたい、でも体が動かない。
頭がぼーっとなり、意識を失いそうにフラフラとしていたところで、叔母さんが2階に上がってきてくれたのです。
「終わったね。怖かったでしょう。よく耐えたね。もう大丈夫よ。もう大丈夫」
そう言いながら叔母さんに抱き締められ、私はせきをきったように泣きだしてしまいました。
何を思えばいいのか、本当に分かりませんでした。

少しして落ち着いた私は、叔母さんに抱えられながら居間に戻りました。
時間はもう2時を過ぎていました。
時間を確認すると、
「○○ちゃん、ホッとしている時間はないの。
 あの子やあの子のお父さんは、今日はもうここには戻ってこないけど、さっきのはもう一度行われるわ」
「…えっ…?」
「今度は3時に。歌の内容もさっきとは少し違うものになるの。
 ここでぐずぐずしていると、またあの子達が水溜まりに集まってくるわ。そうしたらもう取り返しがつかなくなる」
「そんな、どうしたらいいんですか?私はどうしたら」
「落ち着いて。今から私の家に行くわ。この町を出て少し行ったとこにあるから。
 でも、あなたが持ってきたものとかは諦めてちょうだい。持ち帰るとかえって危険だからね。
 詳しい話はそれからにしましょう。さぁ、すぐ行くわよ」

言われるままに私と叔母さんは家を飛び出し、そこから少し離れた空き地にとめられていた叔母さんの車に乗り込み、
その町を後にしました。
どこを走っても同じ景色に見え、迷路から抜け出そうとしているような気分でした。

1時間ぐらい走ると、ようやく叔母さんの家に着きました。
中に入り、ある部屋に案内されたのですが、その部屋の中を見て再び恐怖が全身に広がりました。
卓袱台しかないその部屋の壁一面、天井にまでお札がびっしりと貼られていたのです。異常としか思えませんでした。
もしかして、私は騙されているのでは?
叔母さんも何かとんでもない事に加担している一人?
そんな考えが頭をよぎりました。
次々と意味の分からない状況が続き、自分以外の者に対して不信感が募っていたのかも知れません。
そんな私の心を見透かすように、叔母さんは言いました。
「いろいろと思うことはあるでしょうし、恐怖もあるでしょうけど、この部屋でなきゃ話は出来ないのよ。
 ごめんね。我慢してね」
叔母さんは私をゆっくりと卓袱台の前に座らせ、自分は真向いに座りました。
そして、話してくれました。

ここからは叔母さんの話を中心に書きます。ほぼ、そのままです。
「何から話せばいいのかしらね…
 ○○ちゃんはそもそも、あの子から何て聞いて、どうしてあの町へ来たの?」
「毎年おもしろい行事があるから、見に来ないかって誘われたんです。
 町の中から一人が選ばれて、その人のために行われるものだって聞きました。
 それで、今年はお母さんが選ばれた…って」
「期間は三日間で、今日は二日目っていうのは聞いた?初日から来れないかって誘われなかった?」
「聞きました。初日から見せてあげたいからそうしようかっていう話もあったんですけど、私が断ったんです。
 あまりお世話になるのも悪いと思ったので…」
「そっか。あの子があなたに言ったことは全部そのままね。
 あれは毎年選ばれた人のために行われるもので、今年はあの子の母親が選ばれた。
 一日目から見せたいと言ったのは、特別な意味があったから」
「どういう事ですか?」
「○○ちゃん、今日一度でもあの子の母親の姿見た?見てないわよね?
 それどころか、どこで何をしてるのかも、あの子は具体的に話さなかったでしょう?
 当たり前なのよ。あの子の母親、つまり私の妹だけど、死んでるんだから。何年も前にね」


「…えっ?…」
「あの子が学生の頃だったから、もうずいぶん前よ。
 だから、あなたが話を聞いた時も、最初からあの子の母親はいなかったって事」
「そんな、だって…それじゃ選ばれたっていうのは何なんですか?さっきの事は何なんですか?」
「あれは死人を生き返らせるためのもの。
 選ばれたというのは、生き返るチャンスを得たという事なの。
 毎年、死んだ人間の中から一人が、そのチャンスを得られる。
 ただし、それを家族が望んでいなければダメ。
 望む場合は庭とかに大きな穴を掘って、その意志を示すの。
 選ばれた場合、知らない間に穴に水が溜まっていって、大きな水溜まりが出来るの。
 これは1月2日から12月1までの間、時間をかけて起こるわ。
 それによって選ばれた者の家族は、29~31日(30~1日)の三日間、さっきのあれを行う。
 そして1月2日から水がなくなり、また時間をかけて別の人が選ばれるのよ。
 さっき、歌を聞いたわよね?最後まで聞いたわよね?どんな内容だったか言ってみてくれる?」
前述の歌詞を叔母さんに伝えました。
叔母さんの話ではこうなるそうです。

かえれぬ子はどこか
かえれぬ子は池の中

かえれぬ子はだれか
かえれぬ子は〇〇〇
(選ばれた死人の名前)

かえるの子はどこか
かえるの子は池の外

かえるの子はだれか
かえるの子は〇〇〇
(犠牲にする者の名前)

かえれぬ子はどうしてる
かえれぬ子は泣いている

かえるの子はどうしてる
かえるの子は鳴いている

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