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【洒落怖】マネキン

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422 :かおる:02/02/07 00:56
S子が私の手をぐいぐい引っ張って外に連れ出そうとします。
私はそれでもまだ、形だけでもおばさんにおいとまを言っておくべきだと思っていました。
顔を合わせる勇気はありませんでしたが、奥に声をかけようとしたのです。
F美の部屋の向こうにあるふすまが、20センチほど開いていました。
「すいません失礼します」
よく声が出たものです。
その時、隙間から手が伸びてきて、ピシャッ!と勢いよくふすまが閉じられました。
私たちは逃げるようにF美の家を出て行きました。
帰り道、私たちは夢中で自転車をこぎ続けました。
S子が終始私の前を走り、1メートルでも遠くへ行きたいとでも言うかのように、
何も喋らないまま、自分たちのいつもの帰り道まで戻っていきました。
やっと安心できると思える場所に着くと、私たちは飲み物を買って、一心不乱にのどの渇きをいやしました。
「もう付き合うのはやめろ」とS子が言いました。
それは言われるまでもないことでした。
「あの家、やばい。F美もやばい。でもおばさんがおかしい。あれは完全に・・・」
「おばさん?」
トイレに行った時のことをS子は話しました。

423 :かおる:02/02/07 00:57
S子がF美の部屋を出たとき、隣のふすまは開いていました。
彼女は何気なしに通りすぎようとして、その部屋の中を見てしまったそうです。
マネキンの腕、腕が、畳の上に4本も5本もごろごろ転がっていたそうです。
そして、傍らで座布団に座ったおばさんが、その腕の一本を狂ったように嘗めていたのです。
S子は震えながら用を足し、帰りにおそるおそるふすまの前を通りました。
ちらと目をやると、こちらをじっと凝視しているおばさんと目が合ってしまいました。
つい先刻の笑顔はそのかけらもなくて、目が完全にすわっています。
マネキンの腕があったところには、たたんだ洗濯物が積まれてありました。その中に男物のパンツが混じっていました。
「マ、マネキンは・・・?」
S子はついそう言って、しまったと思ったのですが、
おばさんは何も言わないまま、S子にむかってまたにっこりと笑顔を見せたのでした。
彼女が慌てて私を連れ出したのはその直後のことでした。

424 :かおる:02/02/07 00:59
あまりにも不気味だったので、私たちはF美が喋って来ない限り話をしなくなりました。
そしてだんだん疎遠になっていきました。
この話をみんなに広めようかと考えたのですが、とうてい信じてくれるとは思えません。
F美と親しい子にこの話をしても、傍目からは、私たちが彼女を孤立させようとしているとしか思われないに決まっています。
特にS子がF美とあんまり仲がよくなかったことは、みんな知っていますから・・・。
F美の家に行ったという子に、こっそり話を聞いてみました。
でも一様に「おかしなものは見ていない」と言います。
だから余計に私たちに状況は不利だったのです。
ただ一人だけ、これは男の子ですが、「そういえば妙な体験をした」という子がいました。
F美の家に行ってベルを押したが誰も出てこない。
あらかじめ連絡してあるはずなのに・・・と困ったが、とにかく待つことにした。
もしかして奥にいて聞こえないのかと思って、戸に手をかけたらガラガラと開く。
そこで彼は中を覗き込んだ。
ふすまが開いていて(S子が見た部屋がどうかはわかりません)部屋の様子が見えた。
浴衣を着た男の背中が見えた。向こうに向いてあぐらをかいている。
音声は聞こえないが、テレビでもついているのだろう。
背中にブラウン管かららしい、青い光がさして、ときおり点滅している。
だが何度呼びかけても、男は振り返りもしないどころか身動き一つしない・・・
気味が悪くなったのでそのまま家に帰った。
F美の家に男はいないはずです。
たとえ親戚やおばさんの知り合いであったところで、テレビに背中をむけてじっと何をしていたのでしょう?
それとも、男のパンツは彼のだったのでしょうか。
もしかしてそれはマネキンではないかと私は思いました。
しかし、あぐらをかいているマネキンなど、いったいあるものでしょうか。
もしあったとすれば、F美の部屋にあったのとは別の物だということになります。
あの家にはもっと他に何体もマネキンがある・・・?
私はこれ以上考えるのはやめにしました。
あれから14年がたったので、今では少し冷静に振り返ることができます。
私は時折、地元とはまったく関係ない所でこの話をします。
いったいあれが何だったのかは、正直今でもわかりません。
もしF美たちがあれを内緒にしておきたかったとして、
仲の良かった私だけならまだしも、なぜS子にも見せたのか、どう考えても納得のいく答が出ないように思うのです。
そういえば、腕をWの形にしているマネキンも見たことがありません。
それだと服を着せられないではないですか。
しかしあの赤い服は、マネキンの身体にピッタリと合っていました。
まるで自分で着たとでもいうふうに・・・
これが私の体験の全てです。

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