【洒落怖】つんぼゆすり

703 :つんぼゆすり 1/6:03/06/17 17:07
こどものころ、伯父がよく話してくれたことです。

僕の家は昔から東京にあったのですが、
戦時中、本土空爆がはじまるころに、祖母と当時小学生の伯父の二人で、田舎の親類を頼って疎開したそうです。
まだ僕の父も生まれていないころでした。
戦争が終わっても東京はかなり治安が悪かったそうで、すぐには呼び戻されなかったそうです。

そのころ疎開先では、色々と不思議なことが起こったそうです。
そこだけではなく、日本中がそうだったのかもしれません。
時代の変わり目には奇怪な噂が立つと聞いたことがあります。
伯父たちの疎開先は小さな村落だったそうですが、
村はずれの御神木の幹にある日、突然大きな口のような『うろ』が出来ていたり、5尺もあるようなお化け鯉が現れたり。
真夜中に誰もいないにもかかわらず、あぜ道を提灯の灯りが行列をなして通りすぎていったのを、
多くの人が目撃したこともあったそうです。
今では考えられませんが、狐狸の類が化かすということも、真剣に信じられていました。
そんな時、伯父は『つんぼゆすり』に出くわしたのだと言います。


704 :つんぼゆすり 2/6:03/06/17 17:08
村のはずれに深い森があり、そこは『雨の森』と呼ばれていました。
森の中で雨に遭っても、森を出れば空は晴れているという、不思議な体験を多くの人がしていました。
伯父はその森の奥にうち捨てられた集落を見つけて、仲間たちと秘密の隠れ家にしていました。
4,5戸の小さな家が寄り集まっている場所で、親たちには当然内緒でした。

チャンバラをしたりかくれんぼをしたりしていましたが、
あるとき、仲間の一人が見つからなくなり、夕闇も迫ってきたので焦っていました。
日が落ちてから雨の森を抜けるのは、独特の恐さがあったそうです。
必死で「お~い、でてこ~い」と探しまわっていると、誰かが泣きべそをかきはじめました。
伯父は「誰じゃ。泣くなあほたれ」と怒鳴ったが、しだいに異変に気付きました。
仲間の誰かが泣き出したのだと思っていたら、見まわすと全員怪訝な顔をしている。
そして、どこからともなく聞こえてくる泣き声が次第に大きくなり、それが赤ン坊の泣き声だとはっきり分るようになった。
ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ
火のついたような激しい泣き方で、まるで何かの危機を訴えているような錯覚を覚えた。
その異様に驚いて、いたずらで隠れていた仲間も納屋から飛び出してきた。
そして暮れて行く夕闇のなかで、一つの家の間口あたりに、人影らしきものがうっすらと見えはじめた。

705 :つんぼゆすり 3/6:03/06/17 17:08
子供をおぶってあやしているようなシルエットだったが、どんなに目を凝らしても影にしか見えない。
人と闇の境界にいるような存在だと、伯父は思ったと言う。
日が沈みかけて、ここが宵闇に覆われた時、
あの影が蜃気楼のようなものから、もっと別のものに変わりそうな気がして、鳥肌が立ち、
伯父は仲間をつれて一目散に逃げだした。

この話を大人に聞いてもらいたかったが、家の者には内緒にしたかった。
近所に吉野さんという気の良いおじさんがいて、話しやすい人だったので、あるときその話をしてみた。
すると、「そいつは、つんぼゆすりかいなあ」と言う。
「ばあさまに聞いた話じゃが、あのあたりではむかしよく幼子が死んだそうな。
つんぼの母親が子供をおぶうて、おぶい紐がずれてるのに気付かずにあやす。
普通は子供の泣き方が異常なのに気付くけんど、つんぼやからわからん。
それでめちゃめちゃにゆすったあげく、子供が死んでしまうんよ」
伯父は寒気がしたという。
「可哀相に。せっかくさずかった子供を自分で殺してしまうとは、無念じゃろう。
それで、今でも子供をあやして、さまよい歩いてるんじゃなかろうか」
「それがつんぼゆすりか」と伯父がつぶやくと、
「鬼ゆすりとも言うな」

706 :つんぼゆすり 4/6:03/06/17 17:10
「鬼ゆすり?」
「なんでそう言うかは知らんが・・・。まあ、そうしたことがよくあった場所らしい」
伯父はなんとなく、あそこはそうした人たちが住んだ集落なのだろうと思った。

ほとぼりがさめたころ、伯父は仲間と連れ立ってまたあの集落にやってきた。
一軒一軒まわって念仏を唱え、落雁を土間にそなえて親子の霊をなぐさめた。

そして、また以前のように遊びまわってから、夕暮れ前に帰ろうとしたとき異変が起きた。
森に入ってから雨が降り出したのだ。さっきまで完全に晴れていて、綺麗な夕焼けが見えていたのに。
伯父たちは雨の降る森を駆け抜けようとした。
しかし、どうしてそうなったのか分らないが、方角がわからなくなったのだという。
一人はこっちだといい、一人はあっちだという。
それでもリーダー格だった伯父が、「帰り道はこっちだ間違いない」と言って先導しようとしたとき、
その指挿す方角から、かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
一人が青くなって、「あっちは元来た方だ」と喚いた。
頭上を覆う木の枝葉から雨がぼたぼたと落ちてくる中で、伯父たちは立ち尽くした。
仲間はみんな耳を塞いで、泣き声の方角からあとずさりはじめた。
「違う違う。だまされるな。帰り道はこっちなんだ。間違いない。逆にそっちにはあの集落があるぞ」

707 :つんぼゆすり 5/6:03/06/17 17:11
伯父は必死に叫んだ。
そうしている間にも、泣き声は不快な響きをあたりに漂わせていた。
伯父は一人を殴りつけて、むりやり引っ張った。
「耳を塞いでろ。いいから俺の後について来い」
そうして伯父たちは、泣き声のする方へ歩いて行った。

やがて木立が切れて森を抜けた時、そこはいつもの村外れだった。
みんな我を忘れて、それぞれの家に走って帰ったという。

僕はその話を聞いて、伯父に「雨は?やっぱり降ってなかったんですか」と聞いたが、
伯父は首をかしげて、「それがどうしても思いだせんのよ」と言った。

これにはさらに後日談がある。
伯父が家に泣きながら帰ってきたとき、なにがあったのか聞かれてこっぴどく怒られたらしい。
当然もうあの森に入ってはいけないと、きつく戒められたそうだ。
そしてしばくたって、伯父はその家の当主でもあった刀自の部屋に呼ばれた。

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