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【長編洒落怖】アケミちゃん

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814 ::2012/04/08(日) 22:48:40.82 ID:D8CCaY6k0
パニックになりながらも、俺はこれからどうするべきか考えた。
すると、ふとベットのところに置いてある充電器にささったままの携帯が目に入った。
「これだ!」警察官が言っていた、電話さえすれば返事がなくともパトカーを様子見に送ると。
俺はアケミちゃんに悟られないように、そして不自然にならないように、可能な限り自然な動きで
ベットのところまで移動し携帯のほうを見ようとすると、アケミちゃんが「携帯さわっちゃだめ
だよ」と振り向きもせずに言い出した。
「洒落にならん…気づいてやがった…」そのまま動く事が出来ず呆然としていると、アケミちゃんが
すくっと立ち上がり、俺のほうへやってくると、携帯を充電器から抜き取り自分のバッグの中へ
としまい、何も言わずにそのまま部屋の片付けに戻っていった。
これからどうするべきか、何か考えないといけないのだが、あまりの出来事に動揺してしまい
思考が上手くまとまらない。
とりあえずあたりを見回してみると、ふと中身が入ったままの電気湯沸しポットが目に付いた。
そこで、俺は普段なら絶対に考え付かない方法を思いついた。
こいつは中に結構な量のお湯が入ったままだ、こいつでぶん殴れば流石に…
俺は別にフェミニストとかそんなんではないが、流石に普通なら女の子に暴力を振るうような
事は躊躇われる。が、今は状況が状況だし、そもそもアケミちゃんは男か女かとか以前に
明らかに人ではない、「躊躇われる」なんてかっこつけていられるような余裕も無い。

815 :10:2012/04/08(日) 22:49:20.45 ID:D8CCaY6k0
俺は意を決してポットの取っ手を握り締めると
「うあああああああああああああああああああああああ」
と絶叫しながらアケミちゃんの頭を全力でぶん殴った。
アケミちゃんはそのまま壁の反対側まで吹っ飛び倒れた。
そして俺が様子を見ようとするとムクッと上半身を持ち上げ「いったーい、何するの?」
と、まるでおふざけて小突かれてちょっと怒った振りするようなそんな感じの返事を返して
きた。
俺はアケミちゃんの姿を見て恐怖心で動けなくなった。
返事が状況に似つかわしく無いからではない、なんと説明すれば良いのか、上半身を
起き上がらせたときに、顔の鼻から上といえばいいのか、それとも眼窩の下の部分から
上といえば良いのか、その部分がボロッと顔面から落っこち、「鼻から下だけ」になった
顔がそんな事を言っていたのだ。
ありえない。
あまりの事に動けなくなっていた俺だが直ぐにわれに帰り、手に持っていたポットを
アケミちゃんに投げつけると、後ろを振り返り玄関へダッシュすると、そのまま外へ
逃げ出した。
そして道路まででると一端アパートの方を振り返ったのだが、そこでまたとんでもない
物を目撃した。

816 :11:2012/04/08(日) 22:49:53.57 ID:D8CCaY6k0
俺の部屋は2階にあるのだが、アケミちゃんが部屋の窓から身を乗り出し、片手に
中華包丁を、もう一方の手に自分の頭のパーツを掴み、丁度俺のほうを見ながら
下へと飛び降りるところだった。
俺はもう頭はパニック状態、ションベン漏らしそうになるほど恐怖し、いい年こいて
涙目になりながらもう道順も目的地も何も関係無しに全力で逃げ出した。
後ろのほうから、かなり遠くにだがカチカチカチカチ…と音がする。
恐らくアケミちゃんが俺を追ってきている音だ。
俺は「追いつかれたら確実に殺される」と思いながら、ふとさっきアケミちゃんが
言っていた事を思い出した。
「“私”を捨てたら殺すから」と。
“私”ってどういう意味だ?本体はあの指ってことか?意味が良く解らないが、とにかく
これが鍵になりそうではある。しかしどうしたらいいのかは解らない、捨てなければ
どこまでも追いかけられるだろうし、しかし捨てたら殺すと言われた。
だが、そもそもこの状況、どう考えても指を捨てようが捨てまいが追いつかれたら
殺される。


821 :12:2012/04/08(日) 23:15:40.67 ID:D8CCaY6k0
こうなってくると、問題は捨てるか捨てないかではなく「どう捨てるか」だ。
そんな事を考えながら走り続けていると大きな道路に出た。そして、その道路を
渡った100mくらい先のところに、神社らしき鳥居が見える。
俺は何の根拠も無く「これだ!」と思った。
もう屁ヘトヘトに疲れていたが、最後の力を振り絞って全力疾走すると、道路を横断し
鳥居を潜り、ポケットの中から例の人形の指を取り出すと、それを拝殿の中に投げ込んだ。
それと同時に、道路のほうから
キィィィィィィィィィィィ!
と車が急ブレーキを踏む音が聞こえてきて、その後 ドンッ!と結構大きな音がした。
鳥居越しに車が停まっているのが見える、もしかしてアケミちゃんを轢いたのか?そんな
事を考えながら恐る恐る道路に出てみると、30代くらいのおじさんが車の前に立って
どこかに電話している。
様子から察するに警察か救急車だと思われるのだが、不思議な事にあたりを見回しても
それらしき人影が無い。
俺が「どうしたんですか?」とおじさんに声をかけると、「それが…今人を轢いちゃった
はずなんだが…見ての通り人なんていないんだよ、でとりあえず警察にとおもって」
という。

822 :13:2012/04/08(日) 23:16:21.91 ID:D8CCaY6k0
タイミング的に明らかに轢かれたのはアケミちゃんのはずなのだが…とふと道路の
端のほうを見ると、なんかの残骸みたいなものがいくつか転がっている。
恐る恐る近付いてみると、それは人形の残骸だった。
そして、胴体や足の部分の衣服などを見る限り、それはどう見てもアケミちゃんの
ものだった。
俺は混乱した。
たしかに人形みたいな形跡はあったが、こんなあからさまに安っぽい人形の
姿では無く、もっと質感的にも普通の人間っぽかったはずだ、ここにあるのはなんだ?
どういうことだ?“私”を神社に投げ込んだからお払いが出来たのか?そんなご都合主義
な事がありえるのか?頭の中が「?」でいっぱいになった。
が、目の前にある現実は変わらない。
そうこうしていると警察がやってきた。
俺も一応目撃者というかある意味被害者なので、色々と事情を説明したのだが、
当然意味不明すぎて警察も信じてくれない。
アケミちゃnらしきものを轢いてしまった人も、あまりにも意味不明で何が起きている
のか理解できないらしく、なんかちょっと興奮気味に警察に何か話していた。
ただ一つだけ不思議な事があった。
人形って普通は手や足を胴体と繋ぐジョイント部分ってものがあるよな?この人形、
警察も不思議に思っていたようだが、そういうジョイント部分が一切なかった。
つまりどうやって人の形に接続されていたのかがさっぱりわからない。
アケミちゃんのあの姿からして、中に何か入っていたんじゃないかとか、色々怖い想像
をしてしまうのだが、今となっては何も解らない。
そもそもこの人形の残骸は、そのまま警察が証拠品として持ち帰って行ってしまい、
その後どうなったかわからないからだ。

823 :ラスト:2012/04/08(日) 23:17:03.42 ID:D8CCaY6k0
なんともあっけない幕切れなのだが、実はこの後何も無い。
自宅に帰ってみるとどうもあの騒ぎを誰かが通報したらしく、警察がやってきていた。
そして部屋に残されていたアケミちゃんのバッグを証拠品としてもって行ったのだが、
結局身元がわかるようなものは何一つ無かったらしい。
ただ携帯に関して後から変な事を教えてもらった。
アケミちゃんの持っていた携帯、もう何年も前に解約したものらしく、書類上はとっくに
廃棄されているはずのもので、通話を受信できるような代物ではなかったらしい。
その後現在まで、俺はアケミちゃんに出会うことはありません。
ただし、今でも急に人気が無くなったり、元からあまり人気が無いような場所は
恐ろしくて近付けません。
人形に関しては、いろいろと想像できる部分もあるのですが、あまり憶測で書きたくない
のと、変に想像すると現実になりそうで怖いので、そういう事はこれを読んでいる
みなさんのご想像にお任せします。
以上です。

著:雨穴
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