863 :そんな振りのあとではきついが:04/03/18 13:49
こんなこと話していいのかわからないが、一応時効ということで。
10年以上前、俺が高校1年の時に、よくツレと一緒に郊外の廃屋に忍び込んでシンナー吸ったりしてた。
そこは先輩たちから譲ってもらった場所で、もとラブホだったらしくて幾つかの部屋にはベットも残ってた。
もちろんそこへ行くのはいつも夜中だったから、懐中電灯を持っていって、主にロビーだった場所でダベっていた。
スプリングがキシキシいうけど、一応ソファーがあったから。
大体そこに行くツレは4,5人だった。
悪い連中には格好のスポットだったけど、
俺たちの前にいた(高校の)先輩たちが相当ムチャする人たちだったので、
他のやつらは寄り付かないという最高の場所だった。
その日も俺含め5人でロビーでダベってた。
小雨がパラパラ降る音がしはじめた時、アホのシロウが「トイレね?」と言い出した。
865 :続き:04/03/18 13:50
ションベンは普通外の草むらでしてたんだけど、雨が降ってきたから出たくないらしい。
「あのドアの奥になかったっけ?」と、ツレの一人がロビーの奥の扉を懐中電灯で照らした。
「ああ、でも水でねーぞ」と言ったが、シロウは「いいのいいの」と言って、懐中電灯持って消えていった。
「あったあった」と、間の抜けた声が小さく聞こえた。
しかし、それから10分たっても20分たっても帰ってこない。
さすがに気になって、一人が「おい長グソかー?」と言いながら、奥の扉を開けて入って行った。
そしたら、ちょっとして青い顔で出てきた。
「おい、おらんぞシロウ」
おらん?
「おらんつーか、とにかく見てみろ」と言うので、全員でドアを開けた。
そこは事務室のような所だった。
二部屋がつながっていたが、トイレがないことはすぐにわかった。
というより、他にどこにも出入り口はなかった。
866 :続き:04/03/18 13:51
シロウが一本持っていったので懐中電灯が二本しかなかったが、人が入れそうな場所はどこにもないのは明らかだった。
そのあとロッカーとか机の裏とか徹底的に探したのに、結局シロウは見つからなかった。
その状況の異常さに俺たちは真っ青になって、とりあえずこのことは誰にも言わないようにしよう、ということになった。
俺がいうのも何だが、シロウの家はまともな家庭じゃなかったせいか、
息子が帰ってこないというのに、捜索願いも出さなかったようだった。
結局、失踪あつかいされたまま、シロウは忽然と姿を消した。
俺たちはもうそのラブホには行かなくなった。
高校卒業したあとも俺はずっとそのことが気になっていた。
消え去ったことよりも、シロウがなぜ『あったあった』と言ったのか。
なぜかそれが無性に怖かった。
867 :ラスト:04/03/18 13:52
何年かして、街でたまたま当時のツレと会った。
サ店で喋っていると、自然にあの事件の話になった。
ツレはあのあと、先輩になぜあのラブホが廃屋になったのか聞かされたという。
ゾクッとした。
客が何人か行方不明になったからだと。
どんな風に消えたのかは分からないが、それだけで十分だった。
ツレはそれを話したあとなぜか俯いて、氷だけになったレモンティーをストローでかき混ぜ続けた。
油汗が浮かんでいたので、「おい、どうした」と肩をゆすった。
するとツレは、あの時のシロウが「トイレね?」と言ってからの細かい流れを話し始めた。
「俺があの時、シロウが入った扉の一番近くにいたの覚えてるか」
言われるとそうだった気がする。
「俺な、扉が閉じたあとで、小さな声を聞いたんだけどよ」
「あったあった、って言ったやつやな」
ツレは青い顔で頷いて続けた。
「あれな、シロウの声じゃなかった」
数年分の鳥肌が一気に立った気がした。