【長編洒落怖】カン、カン

475 :270:02/08/22 23:35 
真っ暗な居間、開いていたカギ、そしてあの金属音。家の中には誰もいなかったはず。アレ以外は。 
私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。あの状態で人なんかいるはずがない・・・
でも、もし居たら?私は玄関までしか入っていないのでちゃんと中を見ていない。ただ電気が消えていただけ。 
もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、私の声に気付かなかっただけかもしれない。 
何とかして確かめたい。そう思い、私は家に電話を掛けてみることにしたのです。

スーパーの脇にある公衆電話。お金を入れて、震える指で慎重に番号を押していきました。 
受話器を持つ手の震えが止まりません。1回、2回、3回・・・・コール音が頭の奥まで響いてきます。 
『ガチャ』
誰かが電話を取りました。私は息を呑んだ。耐え難い瞬間。 
『もしもし、どなたですか』
その声は母だった。その穏やかな声を聞いて、私は少しほっとしました・・・
「もしもし、お母さん?」
『あら、どうしたの。今日は随分と遅いじゃない。何かあったの?』 
私の手は再び震え始めました。手だけじゃない。足もガクガク震え出して、立っているのがやっとだった。 
あまりにもおかしいです。いくら冷静さを失っていた私でも、この異常には気付きました。 
「なんで・・・お母さ・・・」
『え?なんでって何が・・・ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?』
お母さんが今、こうやって電話に出れるはずはない。私の家には居間にしか電話がないのです。 
さっき居間にいたのはお母さんではなく、あのバケモノだったのに。
なのにどうして、この人は平然と電話に出ているのだろう。
それに、今日は随分と遅いじゃないと、まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。
私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、得体の知れないもののようにしか思えなかった。 
そして、乾ききった口から何とかしぼって出した声がこれだった。
「あなたは、誰なの?」
『え?誰って・・・』
少しの間を置いて返事が聞こえた。 
『あなたのお母さんよ。ふふふ』

481 :しねしね団:02/08/22 23:47
>>270 
ところで、その日は君はアパートに帰ったのかい? 

484 :270:02/08/22 23:54
>>481 
次の日、姉と一緒に戻りました。 
その後の話もあるのですが、やや蛇足気味になるんでやめときます。


470 :カン、カンその後 1:2010/01/04(月) 16:46:17 ID:+c8UOsBv0 
以前このスレで『カン、カン』という話を投稿した者です。 
あれから8年近くもの月日が経ちました。
またも恐ろしい出来事がありましたので、皆様にお伝えします。 
拙い文章であることに加え、前回の話を読んでいない方には少々伝わりにくいかもしれませんが、ご了承下さい。 

現在、私の実家のアパートには母と妹が住んでおり、
2つ上の姉は実家からだいぶ離れた場所で就職し、私は隣県の大学に通いつつ一人暮らしをしています。
父は単身赴任で、8年前と変わらず全国を転々としています。

去年の冬、久しぶりに実家から連絡があり、母から『家に戻ってきなさい』と声を掛けられました。 
私はとにかく家に帰るのが嫌で、せっかくの休日をあのおぞましい場所で過ごしてたまるものかと思い、
母の誘いを毎年頑なに断っていました。
しかし、今年は滅多に戻ることのない姉と父が帰ってくることもあり、母の怒声にも押され、
卒論を間近に控えつつも、しぶしぶ帰省することにしました。 
恐ろしい目にあった家に再び戻ることにも抵抗は十分にあったんですが、実はそれよりも怖いことがありました。 
母には申し訳ないことなのですが、母と対面するのが何よりも怖かったのです。 
かつて母と電話越しで会話をした時、母が明らかにおかしな様子だったのを今でも覚えています。 
母の声なのに、母じゃないモノと会話をしていたあの瞬間。今でも忘れられません。 
・・・とはいえ、全ては過去のこと。
アレを見た後でも、私の身の周りでは特におかしな事はなく、 
幸運なことに、家族の中で病気をしたりケガしたりする人もいませんでした。
姉も妹も元気そうにしてるし、母も父もここ8年で変わったことはないようです。
もはやあの『家族がお終い』という呪いの言葉だけではなく、白い着物姿の女を見たことさえも夢だったのではないか、
と思い始めていたところでした。 
耳にこびりついているあのイヤな音だって、いつかきっと忘れるに違いありません。 
絶対に大丈夫!!と自分に強く言い聞かせ、私は実家に向かいました。
帰省を避けていた本当の理由を母に悟られないよう、せめて実家にいる間は明るく振舞おうと心に決めていました。 

471 :カン、カンその後 2:2010/01/04(月) 16:47:09 ID:+c8UOsBv0 
家に帰った私はほっとしました。
父も母も、妹も姉も元気そうで、久しぶりに帰省した私を見て、
「卒業は大丈夫なのか」「彼氏はできたのか」などと、お約束のお節介を焼くのでした。 
あれほど気にしていた母も変わった様子はなく、ホテルの清掃業のパートで日々忙しいとの事でした。 

しかし、姉に話しかけることだけは気まずく、躊躇われました。
その理由は、8年前のあの出来事があってから、姉は私のことを今日まで徹底的に無視し続けたからです。
幼い時、あの真っ暗な居間で、私が大声で叫んだことが絶交のきっかけに違いなく、
私に対する姉の冷たさは尋常なものではありませんでした。 
そんな姉が実家で発した言葉に私は耳を疑いました。
「あんたのこと、ずっと無視しててごめん」 
まさか、かれこれ8年も無視されていた姉から、謝罪の言葉があるとは思わなかった。 
「私こそごめんなさい。でも、突然どうしたの?もしかして、何かあった?」 
驚きのあまり、聞かない方がよい事まで聞いてしまったような気がしました。
姉はどこかぎこちない表情を浮かべましたが、昔使っていた姉と私の共用部屋に私を招いて話をしてくれました。 
「あたしのうちでね、あの音が聞こえた」
『あの音』という言葉を聞いただけで、私は何かひんやりとしたものが背筋を伝うのを感じました。 
姉はそんな私の様子を見てから話を続けました。 
「あの日、仕事から帰ってきたのが夜9時頃。
 で、部屋でテレビ観てたんだけど、風呂場のほうでカン、カンって。 
 ちっちゃい頃、あんたと一緒にその音を聞いたことがあったから、すぐに分かったよ。これはやばいって。 
 近くに同僚が住んでたから、ソッコーで家を出て、その友達のところに行ったの。
 その友達んちで話をしてたら、また風呂場のほうからカン、カンって。おかしな鉄の音だった。
 友達も私もパニックになって、部屋を出て警察を呼んだ。
 結局風呂場には何も無かったし、一応部屋も調べてもらったけど何もなかった」 

472 :カン、カンその後 3:2010/01/04(月) 16:48:39 ID:+c8UOsBv0 
姉の話は、8年前の忌まわしい記憶を完全に蘇らせました。あの時の出来事は今でも忘れられません。 
真っ暗な居間。テーブルに座る女。カン、カンという金属音。振り向く女。おぞましい顔。 
何の前触れもなく聞こえるあの音は、自分をしばらく極度の金属音恐怖症にさせるほどおぞましいものでした。 
音楽が流れる場所では、カウベルや鈴のような音が鳴らないかヒヤヒヤし、
台所のフライパンや鍋の発する金属音に耳を塞いで怯え、
遠方に向かうときは、踏み切りのある道路を避けねば移動もままならない・・・。 
ただ姉の話には、8年前とはいくつか違う点がありました。 
白い着物姿の女を見ていなければ、声も聞いていない。聞こえたのはカン、カンという不気味な音だけ。 
しかも、場所は風呂場。私は居間のテーブルの上にアレが正座している姿は知っているが、風呂場だなんて・・・。 

本当にアレだったんだろうか・・・そう姉に問い掛けようとした時、突然姉はぼろぼろと涙をこぼし始め、泣き出した。 
私はうろたえながらも、「まだアレだって決まった訳じゃ・・・」と姉をなだめようとしました。
すると姉は泣き顔のまま私の顔を睨み、
「あんた、お母さんのこと、美香(妹の名前)から聞いてないの?」と、凄みのある声で迫ってきました。
お母さんのこと?妹から?話の方向が見えず当惑しました。 
今さっきだって、母の作ったおいしいビーフシチューをいただいたばかりだった。
母の様子に何もおかしいことなんてなかったし、妹も普段通りだったように見えた。 
焦りを隠せない私に向かって、姉は涙を拭いながら言いました。 
「時々、夜中に家をこっそり出ていくんだって。詳しいことは美香に聞いて」 

ただならぬ姉の話を聞いて、私はすぐ妹の部屋に行き問い質しました。 
「お母さんが夜に外に出てるって、どういう事?」 
「ああ、おねえに聞いたんだね。本当なんだよ。何なら一緒に見る?」 

475 :カン、カンその後 4:2010/01/04(月) 17:33:46 ID:+c8UOsBv0 
その夜、私は妹の部屋に入れてもらい、妹のベッドの隣に布団を敷き、
ぼんやりと天井を眺めながら時間が経つのを待ちました。
妹の話では、母が家を出る時間は大体決まっていて、1時過ぎ頃に家を出て、10分程度で帰ってくるとの事でした。
最初、母の外出に気付いた妹は、気分転換がてら外にタバコを吸いに行っているものと思ったらしく、
特に気に留めずそのまま寝ていたらしい。 
しかし、雪が降るほどに寒くなってからも母の外出は続いた。
そのことを母に聞くと、「何のこと?」という反応。
とぼけている様子もなく、自分が深夜に外出していること自体、全く自覚がなさそうだというのだ。
不審に思った妹は、母の後をこっそりつけたのでした。 

「そろそろだよ」 
妹が言うと、私は耳を澄ませた。すると間もなく、ドアを一枚隔てた廊下側で何やら人の気配がした。 
ガサ、ガサと玄関の辺りで物音が聞こえた。おそらくブーツを履いているのだろうと思った。 
そして、キイという音とともに、コッコッコッという足音。間違いなく今、外に出た。 
私と妹は顔を見合わせ、なるべく音を立てないようにドアを静かに開け、忍足で玄関に行った。 
鍵は掛かっていなかった。妹は注意深くドアノブを握り、そっとドアを開けた。 
真っ暗な路地。街灯と月明かりだけが頼りだった。 
母はどこに行ったんだと妹に聞くと、驚いたことにすぐ近くにいるという。
嫌な予感がじわじわとしていた。

家から100mほど進んだところ、路地を照らす街灯の下に母はいた。 
母は電柱の周りをぐるぐる回っていた。
散歩のようにゆったりと歩くようなペースではなく、かなり速いはや歩き。
あるいは駆け足のようなものすごいスピードで、ぐるぐるぐるぐる回っていた。 
昼間に見せてくれていたような、朗らかで優しげな表情は今やどこにもなく、
遠目に見ても、般若のような鬼の形相にしか見えなかった。
あまりの恐ろしさに呆然としていると、
妹は「もう帰ろう」と促すと同時に、 「たぶん、あと10分くらい続くから、あれ」と付け加えた。 
ものすごく怖かった。母の異常な姿を目の当たりにして、私はようやく事の重大さに気付き始めた。 
『あなたも、あなた達家族もお終いね』 
今頃になって、あの女のおぞましい言葉が頭の中で繰り返されました。 



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