師匠シリーズ

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【師匠シリーズ】トイレ

160:トイレ  ◆oJUBn2VTGE:2008/06/28(土)23:43:52ID:quV+YcYD0大学1回生の春だった。休日に僕は一人で街に出て、デパートで一人暮らしに必要なこまごまとしたものを買った。レジを済ませてから、本屋にでも寄って帰ろうかなと思いつつトイレを探す。天井から吊り下がった男と女のマークを頼りにフロアをうろつき、ようやく隅の方に最後の矢印を見つけた。角を曲がると、のっぺりした壁に囲まれた通路があり、さらに途中で何度か道が折れて、結局トイレルームに至るまでには人の気配はまったくなくなっていた。ざわざわとした独特の喧騒がどこか遠くへ行ってしまい、自分の足音がやけに大きく...
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【師匠シリーズ】天使

685:天使  ◆oJUBn2VTGE:2008/04/30(水)21:47:18ID:NrJoj9WI0京介さんから聞いた話だ。怖い夢を見ていた気がする。枕元の目覚まし時計を止めて、思い出そうとする。カーテンの隙間から射し込む朝の光が思考の邪魔だ。もやもやした頭のまま硬い歯ブラシをくわえる。セーラー服に着替え、靴下を履いて鏡の前、ニッと口元だけ笑うとようやく頭がすっきりして来る。そしてその頃になってまだ朝ごはんを食べていないことに気づく。ま、いいか、と思う。朝ごはんくらい食べなさいという母親のお説教を聞き流して家を出る。今日は風があって涼しい。本格的な夏の到来はもう少し先のようだ。大通りに出...
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【師匠シリーズ】人形

209:人形 ◆oJUBn2VTGE:2008/02/12(火)00:13:49ID:FukvotX90人形にまつわる話をしよう。大学2回生の春だった。当時出入りしていた地元のオカルト系フォーラムの常連に、みかっちさんという女性がいた。楽しいというか騒がしい人で、オフ会ではいつも中心になってはしゃいでいたのであるが、その彼女がある時、こう言うのである。「今さ、友だちとグループ展やってるんだけど見に来ない?」大学の先輩でもある彼女は(キャンパスで会ったことはほとんどないが)美術コースだということで絵を描くのは知っていたが、まだ作品を見せてもらったことはない。「いいですねえ」と言いながら、ふと周囲...
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【師匠シリーズ】エレベーター

191:エレベーター ◆oJUBn2VTGE:2008/02/11(月)23:40:48ID:sx6grxVr0大学1回生の秋だった。午後の気だるい講義が終わって、ざわつく音のなかノートを鞄に収めていると、同級生である友人が声を掛けてきた。「なあ、お前って、なんか怪談とか得意だったよな」いきなりだったので驚いたが、条件反射的に頷いてしまった。「いや違う、そうじゃなくて、怪談話をするのが得意とかじゃなくて、あ~、なんつったらいいかな」友人は冗談じみた笑いを浮かべようとして失敗したような、強張った表情をしていた。「……怖いのとか、平気なんだろ?」ようやくなにが言いたいのか、わかった。彼の周囲で何か...
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【師匠シリーズ】貯水池

512:貯水池 ◆oJUBn2VTGE:2007/09/26(水)22:42:57ID:gAYKdkL30大学1回生の秋だった。その頃の僕は以前から自分にあった霊感が、じわじわと染み出すようにその領域を広げていく感覚を半ば畏れ、また半ばでは身の震えるような妖しい快感を覚えていた。霊感はより強いそれに触れることで、まるで共鳴しあうように研ぎ澄まされるようだ。僕とその人の間には確かにそんな関係性があったのだろう。それは磁石に触れた鉄が着磁するのにも似ている。その人はそうして僕を引っ張り上げ、またその不思議な感覚を持て余すことのないように次々と消化すべき対象を与えてくれた。信じられないようなものをた...
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【師匠シリーズ】追跡

458:追跡 ◆oJUBn2VTGE:2007/09/26(水)20:21:39ID:gAYKdkL30大学1回生の冬。朝っぱらからサークルの部室でコタツに入ったまま動けなくなり、俺は早々に今日の講義のサボタージュを決め込んでいた。何人かが入れ替わり立ち代りコンビニのビニール袋を手に現れてはコタツで暖まったあとに去って行った。やがて一人だけになってしまい俺もやっぱり講義に出ようかなぁと考えては窓の外を眺め、その冬空に首をすくめてもう一度コタツに深く沈みこむのだった。うとうとしていたことに気付き、軽くのびをしてそのまま後ろへ倒れ込む。その姿勢のまま手を伸ばして頭の上の方にあるラックをゴソゴソと漁...
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【師匠シリーズ】雨音

452:お詫びと訂正 ◆oJUBn2VTGE:2007/09/26(水)20:07:33ID:gAYKdkL30お詫びと訂正。これからお話を投下しようとする直前になって、2年ぶりくらいに『降霊実験』を読み返してみたところ、思わず自分の目を疑いました。「芳」という字と「茅」という字を書き間違えているのです。もうほんと、死にたい。古いノートを出してきても、すべて「茅」になっているのに・・・なぜこのとき間違って「芳」としたのかはわかりませんが、今さらもうどうしようもありません。とびちって死にたい。とても重要で致命的な間違いですので、このことを踏まえた上で読んでくださいとしか言いようがありません。すみ...
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【師匠シリーズ】自動ドア

312自動ドア ◆oJUBn2VTGEウニ2007/08/23(木)00:19:32ID:pA3eqjtb0先日、ある店に入ろうとしたときに自動ドアが開かないということがあった。さっき出たばかりのドアなのに、戻ろうとすると反応がない。苦笑して別のドアから回り込んで入った。こういうときはえてして別の目撃者がいない。ある種、個人的な経験だと自嘲気味に考える。そのとき、ふと大学時代のことを思い出した。学生のころは、自動ドアが開かないことが日常茶飯事だった。一人暮らしの大学生なんてものは、毎日3回以上はコンビニに行くものと相場が決まっている。俺もキャンパス近くの学生の街といえる場所に住んでいたために、...
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【師匠シリーズ】鋏

264鋏 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/08/22(水)23:08:04ID:B6d5URPx0大学3回生のころ、俺はダメ学生街道をひたすら突き進んでいた。2回生からすでに大学の講義に出なくなりつつあったのだが、3年目に入り、まったく大学に足を踏み入れなくなった。なにせその春、同じバイトをしていた角南さんという同級生にバイト先にて「履修届けの締め切り昨日までだけど、出した?」と恐る恐る聞かれて、その年の留年を早くも知ったというのだから、親不孝にも程があるというものだ。では大学に行かずになにをしていたかというと、パチンコ、麻雀、競馬といったギャンブルに明け暮れては生活費に困窮し、食べるため...
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【師匠シリーズ】ともだち

256ともだち ◆oJUBn2VTGEウニ2007/08/22(水)22:55:24ID:B6d5URPx0大学2回の冬。昼下がりに自転車をこいで幼稚園の前を通りがかった時、見覚えのある後ろ姿が目に入った。白のペンキで塗られた背の低い壁のそばに立って、向こう側をじっと見ている。住んでいるアパートの近くだったので、まさかとは思ったが、やはり俺のオカルト道の師匠だった。子どもたちが園庭で遊んでいる様子を一心に見つめている20代半ばの男の姿を、いったいどう表現すればいいのか。こちらに気づいてないようなので、曲がり角のあたりで自転車を止めたまま様子を伺っていると、やがて先生に見つかったようで「違うんで...