師匠シリーズ 長編

師匠シリーズ

【師匠シリーズ】未 本編1

336:未 本編1◆oJUBn2VTGE:2012/01/02(月)22:15:41.13ID:93PkLSJW0師匠から聞いた話だ。大学一回生の冬。僕は北へ向かう電車に乗っていた。十二月二十四日。クリスマスイブのことだ。零細興信所である小川調査事務所に持ち込まれた奇妙な依頼を引き受けるために、バイトの加奈子さんとその助手の僕という、つましい身分の二人で、いつになく遠出をすることになったのだ。市内から出発するころにはかなり込んでいた車内も、大きな駅を通り過ぎるたびに少しずつ人が減ってきた。はじめはゴトゴトと揺れる電車の二人掛けの席に並んで腰掛け、荷物をそれぞれ膝に抱えていたのだが、閑散としてき...
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【師匠シリーズ】もういいかい

122:もういいかい ◆oJUBn2VTGE:2010/08/29(日)21:20:14ID:zEqctehg0師匠から聞いた話だ。大学二回生の春だった。休日の昼間に僕と加奈子さんはとある集会所に来ていた。平屋のさほど大きくない建物だ。バイト先の調査事務所の所長から話を聞きにいくように指示されただけで、なんの準備もなしに渡された地図を頼りにやって来たのだった。迎えてくれたのは五十年配の女性。玄関から入ってすぐの襖を開けると十畳ほどの日本間があり、そこへ通された。地区の寄り合いに利用される集会所で、鎌田さんというその女性はそこの鍵を管理しているらしい。その鎌田さんのご主人が地区長をしていて、また...
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【師匠シリーズ】通夜

864通夜 ◆oJUBn2VTGEウニ2009/11/14(土)00:07:01ID:vynNPKLZ0女の子はその暗い廊下が好きではなかった。かび臭く嫌な匂いが壁や床に染み付いている気がして、そこを通るときにはどうしても息を殺してしまう。その廊下の先にはおじいちゃんの部屋があった。女の子が生まれたころからずっとそこで寝ている。足が悪いのだと聞いたけれど、どうして悪くしたのかは知らなかった。昔は大工の棟梁をしていたと自慢げに話してくれたことがあったから、きっと高いところから落っこちたんだろうと勝手に思っていた。部屋を訪ねるとおじいちゃんはいつも喜んでくれて、お話をしてくれたりお菓子をくれたり、...
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【師匠シリーズ】四つの顔

582:四つの顔 ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日)22:41:09ID:e4PX3/wx0大学一回生の冬だった。そのころ俺は大学に入ってから始めたインターネットにはまっていて、特に地元のオカルト系フォーラムに入り浸っていた。かなり活発に書き込みがあり、オフ会も頻繁に行われていたのだが、その多くは居酒屋で噂話や怪談話の類を交換して楽しむという程度で、一応「黒魔術を語ろうという」というテーマはあったものの、本格的にその趣旨を実行しているのはごく一部の主要メンバーだけという有様だった。俺もまた黒魔術などという得体の知れないものを勉強しようという気はさらさらなく、その独特のオカルティ...
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【師匠シリーズ】刀

332:刀 ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金)22:17:41ID:o7OYvvFV0師匠から聞いた話だ。大学二回生の春の終わりだった。僕は師匠のアパートのドアをノックした。オカルト道の師匠だ。待ったが応答がなかった。鍵が掛かっていないのは知っていたが、なにぶん女性の部屋。さすがにいつもなら躊躇してしまうところだが、ついさっきこの部屋を出て行ったばかりなのだ。容赦なくドアを開け放つ。部屋の真ん中で師匠は寝ていた。その日、朝方はまだそれほどでもなかったのに昼前ごろには急に気温が上がり、昨日の雨もあってか、猛烈に蒸し暑かった。その部屋はお世辞にもあまりいい物件とは言えず、こういう寒...
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【師匠シリーズ】先生 後編

748:先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金)21:55:07ID:4o0HgrnU0先生は手にチョークを持ったまま口を開く。「あなたは一昨日の夜、まずシゲちゃんと一緒に二人で洞窟に入った」黒板には洞窟の絵と、丸と線だけの人間が二人描かれている。その上には①というマーク。「一本道の洞窟の奥には顔入道の岩があって、お坊さんのミイラがあるというその先には行けなかった。二人は怒り出す寸前みたいな顔を見てから、入り口へ戻った」行って戻った矢印が洞窟の中に描かれる。そして「怒る前」と走り書き。「その後、タロちゃんが入れ替わりに一人で洞窟に入って行った」②として、もう一人の丸と線...
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【師匠シリーズ】先生 中編

661:先生 中編 ◆oJUBn2VTGE:2009/08/28(金)22:45:47ID:4kHIdhSj0その日は特に陽射しが強くてやたらに暑い日で、家で飼っていた犬も地べたにへばりついて長い舌をしんどそうに出し入れしていた。それでも僕ら子どもには関係がない。夏休み学校から帰ってきて昼ご飯をかきこんでから午後にシゲちゃんたちと合流すると、裏山に作った秘密基地に連れて行かれた。そして木切れや布で出来た狭い空間に顔を寄せ合うと、シゲちゃんが神妙な顔で言う。「こいつももう俺たちの仲間と認めていいんじゃないか」僕のことだ。これで何度目だろう。こんなことをシゲちゃんが言い出した時は、決まって「秘密の...
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【師匠シリーズ】先生 前編

511:ウニ ◆oJUBn2VTGE:2009/08/21(金)22:54:43ID:YUHlb2rI0(´・ω・`) やあ。恐れていたようにおもいきり忙しいよ。たぶん9月上旬まで身動きが取れないよ……毒……(´・ω・`) だからツナギに前に書いたお話をするよ。同人誌に載せた話だよ。512:先生 前編 ◆oJUBn2VTGE:2009/08/21(金)22:58:57ID:YUHlb2rI0師匠から聞いた話だ。長い髪が窓辺で揺れている。蝉の声だとかカエルの声だとか太陽の光だとか地面から照り返る熱だとか、そういうざわざわしたものをたくさん含んだ風が、先生の頬をくすぐって吹き抜けて行く。先生の瞳は...
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【師匠シリーズ】すまきの話

922:すまきの話◆oJUBn2VTGE:2009/06/20(土)22:45:31ID:sgJKT7Op0学生時代の秋だった。朝や夕方のひとときにかすかな肌寒さを覚え始めたころ。俺はある女性とともにオカルト道の師匠の家を襲撃した。周囲の住宅も寝静まった夜半である。アパートの一室から光が消えているのを確認した上で、足音を殺しながらドアの前に立つ。ノブを捻るとあっさりと手前に開いていく。鍵が掛かっていないのは分かっていた。そろそろと暗い部屋の中に入り込み、布団にくるまっている師匠を見下ろす。二人で目配せをした後、持参したロープを上手に布団の下に這わせ、慎重に準備を整える。そして一気にロープを引っ...
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【師匠シリーズ】携帯電話

247:携帯電話◆oJUBn2VTGE:2009/06/07(日)00:26:20ID:PyPRRLYk0大学二回生の夏だった。俺は凶悪な日差しが照りつける中を歩いて学食に向かっていた。アスファルトが靴の裏に張り付くような感じがする。いくつかのグループが入口のあたりにたむろしているのを横目で見ながらふと立ち止まる。蝉がうるさい。外はこんなに暑いのに、どうして彼らは中に入らないのだろうと不思議に思う。学食のある二階に上り、セルフサービスで適当に安いものを選んでからキョロキョロとあたりを見回すと、知っている顔があった。「暑いですね」カレーを食べているその人の向かいに座る。大学院生であり、オカルト道...