師匠シリーズ

【師匠シリーズ】雨上がり

450:雨上がり ◆oJUBn2VTGE:2007/03/07(水)23:05:24ID:OPG460nV0昨日から降っていた雨が朝がたに止み、道沿いにはキラキラと輝く水溜りがいくつもできていた。大学2回生の春。梅雨にはまだ少し早い。大気の層を透過して、やわらかく降り注ぐ光。軽い足どりで歩道を行く。陽だまりの中にたたずむようにバス停があり、ふっと息を吐いて木目も鮮やかなベンチに腰を掛ける。端の方にすでに一人座っている人がいた。一瞬、知っている人のような気がして驚いたが、すぐに別人だとわかり深く座りなおす。髪型も全然違う。それにあの人がここにいるはずはないのだから。バスを待つ間、あの人に初めて会...
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【師匠シリーズ】跳ぶ

442跳ぶ ◆oJUBn2VTGEウニ2007/03/07(水)22:57:12ID:OPG460nV0俺は子供のころからわりと霊感が強い方で、いろいろと変な物を見ることが多かった。大学に入り、俺以上に霊感の強い人に出会って、あれこれくっついて回っているうちに、以前にも増して不思議な体験をするようになった。霊感というものは、より強いそれに近づくことで共振現象を起こすのだろうか。いつか俺が師匠と呼ぶその人が、自分の頭に人差し指をあて、「道が出来るんだよ」と言ったことを思い出す。大学2回生の夏。そのころ俺は師匠に紹介されて、ある病院で事務のバイトをしていた。そこで、人の死を見取った看護師が、死者の...
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【師匠シリーズ】葬式

917葬式 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/03/07(水)19:59:41ID:OPG460nV0大学2回生の初秋。サークルの先輩と二人でコンビニに食料を買いに行った、その帰り道。住宅街の大通りから脇に入る狭い道があり、その手前に差し掛かった時に、軽い耳鳴りに襲われた。その直後、目の前の道路の上にぼんやりとした影が見えた気がした。立ち止まりながら眼鏡を拭いたが、やはり人間くらいの大きさの影がくらくらと揺れている。なんだか現実感が薄い。4つか5つくらいの影が揺れながら狭い道の方へ曲がっていった。その向こうにはどこにでもある昼間の住宅街の光景が広がっている。先輩がその辻に向かい、影が曲がって...
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【師匠シリーズ】田舎 中編

326田舎 中編 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/08/23(木)00:32:44ID:pA3eqjtb0そもそもの始まりは、大学1回生の秋に実に半端な長さの試験休みなるものがぽっこりと出現したことによる。その休みに、随分久しかった母方の田舎への帰省旅行を思いついたのだが、それがどういうわけか師匠、CoCoさん、京介さんという3人の先輩を引き連れての道ゆきとなってしまった。楽しみではあったが、そこはかとない不安がどんよりと道の先にあるのを俺は見て見ぬ振りをしていたのだった。駅まで迎えに来てくれた伯父の車は7人乗りだったが、助手席に伯父の家で飼っている柴犬が丸まって寝ていたので京介さんとCo...
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【師匠シリーズ】田舎 前編

909田舎 前編 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/03/07(水)19:47:40ID:OPG460nV0大学1回生の秋。その頃うちの大学には試験休みというものがあって、夏休み→前期試験→試験休みというなんとも中途半端なカリキュラムとなっていた。夏休みは我ながらやりすぎと思うほど遊びまくり、実家への帰省もごく短い間だった。そこへ降って沸いた試験休みなる微妙な長さの休暇。俺はこの休みを、母方の田舎への帰省に使おうと考えた。高校生の時に祖母が亡くなってその時には足を運んだが、まともに逗留するとなると中学生以来か。母の兄である伯父も「一度顔を出しなさい」と言っていたので、ちょうどいい。その計画を...
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【師匠シリーズ】図書館

902図書館 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/03/07(水)19:37:51ID:OPG460nV0大学2回生のとき、出席しなくてもレポートだけ提出すれば少なくとも可はくれるという教授の講義をとっていた。嬉々として履修届けを出したにも関わらず、いざレポートの提出時期になると「なんでこんなことしなきゃいけないんだ」とムカムカしてくる。最低の学生だったと我ながら述懐する。ともかく、何時以来かという大学付属図書館に参考資料を探しに行った。IDカードを通してゲートをくぐり、どうして皆こんなに勉強熱心なんだと思うほどの学生でごった返すフロアをうろうろする。こんなに暗かったっけ。ふと思った。いや、高...
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【師匠シリーズ】10円

51710円 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/01/28(日)12:52:29ID:STrJj++Q0大学1回生の春。休日に僕は自転車で街に出ていた。まだその新しい街に慣れていないころで、古着屋など気の利いた店を知らない僕は、とりあえず中心街の大きな百貨店に入りメンズ服などを物色しながらうろうろしていた。そのテナントの一つに小さなペットショップがあり何気なく立ち寄ってみると、見覚えのある人がハムスターのコーナーにいた。腰を屈めて、落ち着きのない小さな動物の動きを熱心に目で追いかけている。一瞬誰だったか思い出せなかったが、すぐについこのあいだオフ会で会った人だと分かる。地元のオカルト系ネット...
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【師匠シリーズ】家鳴り

504家鳴り ◆oJUBn2VTGEウニ2007/01/28(日)12:35:29ID:STrJj++Q0大学2回生の夏のこと。俺は心霊写真のようなものを友人にもらったので、それを専門家に見てもらおうと思った。専門家と言っても俺のサークルの先輩であり、オカルトの道では師匠にあたる変人である。彼のアパートにお邪魔するとさっそく写真を取り出したのであるが、それを手に取るやいなや鼻で笑って、「2重露光」との一言でつき返してきた。友人のおじいちゃんが愛犬と写っているその後ろに、ぼやっと人影らしきものが浮かび上がっているのであるが、師匠はそれをあっさりと撮影ミスであると言い切ったのだ。俺は納得いかない思...
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【師匠シリーズ】声

499声 ◆oJUBn2VTGEウニ2007/01/28(日)12:29:26ID:STrJj++Q0大学2回生の春だったと思う。俺の通っていた大学には大小数十のサークルの部室が入っている3階建てのサークル棟があった。ここでは学生による、ある程度の自治権が守られ、24時間開放という夢のような空間があった。24時間というからには24時間なわけで、朝まで部室で徹夜マージャンをしておいて、そこから講義棟に向かい、授業中たっぷり寝てから部室に戻ってきてまたマージャンなどという学生の鑑のような生活も出来た。夜にサークル棟にいると、そこかしこの部屋から酒宴の歓声やら、マージャン牌を混ぜる音やら、テレビゲー...
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【師匠シリーズ】怖い夢

391怖い夢 ◆oJUBn2VTGEウニ2006/12/02(土)14:30:15ID:Q8VwWIU/0幽霊を見る。大怪我をする。変質者に襲われる。どんな恐怖体験も、夜に見る悪夢一つに勝てない。そんなことを思う。実は昨日の夜、こんな夢を見たばかりなのだ。自分が首だけになって家の中を彷徨っている。なんでもいいから今日が何月何日なのか知りたくてカレンダーを探している。誰もいない廊下をノロノロと進む。その視界がいつもより低くて、ああ自分はやっぱり首だけなんだと思うと、それがやけに悲しかった。ウオーッと叫びながら台所にやってくると、母親がこちらに背を向けて流し台の前に立っている。ついさっきのことなの...