師匠シリーズ 長編

師匠シリーズ

【師匠シリーズ】連想Ⅰ

541:連想Ⅰ ◆oJUBn2VTGE:2012/08/18(土)22:32:27.18ID:qKV0Rmwv0師匠から聞いた話だ。「二年くらい前だったかな。ある旧家のお嬢さんからの依頼で、その家に行ったことがあってな」オイルランプが照らす暗闇の中、加奈子さんが囁くように口を動かす。「その家はかなり大きな敷地の真ん中に本宅があって、そこで家族五人と住み込みの家政婦一人の計六人が暮してたんだ。家族構成は、まず依頼人の真奈美さん。彼女は二十六歳で、家事手伝いをしていた。それから妹の貴子さんは大学生。あとお父さんとお母さん、それに八十過ぎのおばあちゃんがいた。敷地内にはけっこう大きな離れもあったんだ...
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【師匠シリーズ】風の行方 後編

225:風の行方 後編 ◆oJUBn2VTGE:2012/05/19(土)23:19:25.47ID:13YZ4scB0それから僕らは、師匠の感じ取る風の向かう先を追い続けた。それは本当の意味で、目に見えない迷路だった。「あっち」「こっち」と師匠が指さす先にひたすら自転車のハンドルを向け続けたが、駅前の大通りを通ったかと思うと、急に繁華街を外れて住宅街の中をぐるぐると回り続けたりした。かと思うと川沿いの緑道を抜け、国道に入って延々と直進したりと、法則もなにもなく、その先に終わりがあるのかまったく見えなかった。そしてまた風に導かれるままに繁華街に戻ってきて、いい加減息が上がってきた僕が休憩しまし...
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【師匠シリーズ】風の行方 前編

183:風の行方 ◆oJUBn2VTGE:2012/05/11(金)21:09:55.96ID:wBpB+Oun0師匠から聞いた話だ。大学二回生の夏。風の強い日のことだった。家にいる時から窓ガラスがしきりにガタガタと揺れていて、嵐にでもなるのかと何度も外を見たが、空は晴れていた。変な天気だな。そう思いながら過ごしていると、加奈子さんという大学の先輩に電話で呼び出された。家の外に出たときも顔に強い風が吹き付けてきて、自転車に乗って街を走っている間中、ビュウビュウという音が耳をなぶった。街を歩く女性たちのスカートがめくれそうになり、それをきゃあきゃあ言いながら両手で押さえている様子は眼福であったが...
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【師匠シリーズ】トランプ 前編

890:トランプ 前編 ◆oJUBn2VTGE:2012/02/25(土)23:24:13.77ID:KKcRHKWO0師匠から聞いた話だ。大学一回生の冬だった。その日僕は朝から小川調査事務所という興信所でバイトをしていた。バイトと言っても、探偵の手伝いではない。ただの資料整理だ。そもそも僕は一人で興信所の仕事はできない。心霊現象絡みの依頼があった時に、その専門家である加奈子さんの助手をするだけだ。助手と言っても、僕のオカルト道の師匠であるところの彼女は、ほとんど一人で解決してしまうので、なかば話相手程度にしか過ぎないのではないかと、思わないでもなかった。「おい、どうした」声に振り向くと所長の...
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【師匠シリーズ】巨人の研究  中編

907:巨人の研究 中編 ◆oJUBn2VTGE:2012/02/18(土)22:23:48.00ID:fQUWiUGe0次の次の日、僕は昼前に師匠の家に行った。月曜日だった。すでに身支度をしていた師匠はすぐに表へ出て来て、「自転車で行こう」と言う。そして僕の自転車の前カゴに荷物を放り込むと、自分は後輪の軸の所に足をかけた。僕の肩に乗った手のひらから一瞬、体温が移る。「まずタカヤ総合リサーチだ」と頭越しに指が突き出される。「はいはい」と二人分の体重を運動エネルギーに変えるべく全力でペダルを踏む。しばらく黙々と自転車をこいでいると、ふいに師匠が言った。「なんか視線を感じる」警戒しているような声。...
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【師匠シリーズ】巨人の研究  前編

672:巨人の研究 前編 ◆oJUBn2VTGE:2012/02/03(金)22:00:55.87ID:WiPg9lRs0師匠から聞いた話だ。大学二回生の夏。ある寝苦しい夜に、所属していたサークルの部室で数人の仲間が集まり、夜通しどうでもいいような話をしてだらだらと過ごしていた。酒も入っていたし、欠席裁判よろしく嫌いな部員の話や色恋沙汰に関する話が主だったが、その中である同い年の女の子がふいに流れを断ち切って、こんな話を始めた。「そういえば、このあいだ変なもの見たんだよね」「変なって、どんな」「なんていうか、小人?」と自分で言いながら小首を傾げている。彼女が言うことには、数日前の夕暮れ時に街を...
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【師匠シリーズ】未 本編5

551:未 本編5 ◆oJUBn2VTGE:2012/01/21(土)23:13:27.86ID:sWc1D+bL0「高橋永熾は軍事的侵攻のさいに、以前の領土で信仰していた八幡神社をこの地にも勧請してきます。これは他の戦国武将にも往々にしてあったことです。そうして勧請された若宮を祀る社、『若宮神社』と名づけられたそれはこの地の人々を氏子として取り込み、高橋永熾の野望が破れた後も残り続け、現在まで脈々と信仰が受け継がれています。今日境内も拝見してきましたが、大変に立派なものだと思います。しかし、庇護者であった高橋家の援助が断たれたにも関わらず、これだけの社格の神社を維持できたのも氏子衆の寄進、そ...
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【師匠シリーズ】未 本編4

528:未 本編4 ◆oJUBn2VTGE:2012/01/20(金)23:52:25.86ID:SywjC5oc0それから僕らは二人で温泉旅館『田中屋』を皮切りに、その近くにあった他の温泉をいくつかハシゴした。どの温泉も入浴のみの客でもOKだった。入浴料を払って汗を流し、新しい服に着替えてから旅館の人をつかまえてそれとなく『とかの』の噂を訊き込んだ。最初はあたりさわりのないことを言っていた古参ぽい従業員も、しつこく話しかけているとまんざらでもないらしく、だんだんとくだけてきて、声をひそめながら、『とかの』に関するゴシップを垂れ流しはじめた。やはり旅館同士の仲は相当に悪いようだ。その中に例の幽...
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【師匠シリーズ】未 本編3

463:未 本編3◆oJUBn2VTGE:2012/01/14(土)23:37:27.49ID:PnBJCiQI0目が覚めたのは朝の九時過ぎだった。まだ頭が重く、肌触りの良い布団から出るのは億劫だったがなんとか気合を入れて起き上がった。三時間ほど寝ていたらしい。広い部屋の真ん中に布団が一組だけ敷いてあるのを改めて眺めると、凄く贅沢な気分になる。大きな窓のカーテン越しに朝の光が部屋の中に射し込んでいる。浴衣の襟のあたりを掻きながらそちらにぼうっと目をやる。それから自分の身体の様子を確かめたが、特に異常はないようだ。あの謎の薬が効いたのだろうか。部屋を出て師匠を探すと、一階の玄関ロビーでOL四人組...
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【師匠シリーズ】未 本編2

401:未 本編2◆oJUBn2VTGE:2012/01/07(土)22:17:16.64ID:HrRb/QUY0『とかの』に帰り着いたとき、腕時計を見ると午後四時半を回っていた。旅館の玄関から中へ向かって楓が「ただいま」と声を張り上げる。少しして女将がフロントの奥から姿を表した。「どうでしたか」「いやあ、期待はずれですね」師匠は明るくそう言って、山の上からの景色についてしばらく女将と語り合っていた。僕は地滑りの跡で見つけた石についてどうして黙っているのだろうと疑問に思った。その師匠の横顔がスッとこちらに向き直る。「おい、次を見に行くぞ」「え」まだどこか行くんですか。師匠は女将にこのあたりの道...