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師匠シリーズ

【師匠シリーズ】未 本編5

551:未 本編5 ◆oJUBn2VTGE:2012/01/21(土)23:13:27.86ID:sWc1D+bL0「高橋永熾は軍事的侵攻のさいに、以前の領土で信仰していた八幡神社をこの地にも勧請してきます。これは他の戦国武将にも往々にしてあったことです。そうして勧請された若宮を祀る社、『若宮神社』と名づけられたそれはこの地の人々を氏子として取り込み、高橋永熾の野望が破れた後も残り続け、現在まで脈々と信仰が受け継がれています。今日境内も拝見してきましたが、大変に立派なものだと思います。しかし、庇護者であった高橋家の援助が断たれたにも関わらず、これだけの社格の神社を維持できたのも氏子衆の寄進、そ...
師匠シリーズ

【師匠シリーズ】未 本編4

528:未 本編4 ◆oJUBn2VTGE:2012/01/20(金)23:52:25.86ID:SywjC5oc0それから僕らは二人で温泉旅館『田中屋』を皮切りに、その近くにあった他の温泉をいくつかハシゴした。どの温泉も入浴のみの客でもOKだった。入浴料を払って汗を流し、新しい服に着替えてから旅館の人をつかまえてそれとなく『とかの』の噂を訊き込んだ。最初はあたりさわりのないことを言っていた古参ぽい従業員も、しつこく話しかけているとまんざらでもないらしく、だんだんとくだけてきて、声をひそめながら、『とかの』に関するゴシップを垂れ流しはじめた。やはり旅館同士の仲は相当に悪いようだ。その中に例の幽...
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【師匠シリーズ】未 本編3

463:未 本編3◆oJUBn2VTGE:2012/01/14(土)23:37:27.49ID:PnBJCiQI0目が覚めたのは朝の九時過ぎだった。まだ頭が重く、肌触りの良い布団から出るのは億劫だったがなんとか気合を入れて起き上がった。三時間ほど寝ていたらしい。広い部屋の真ん中に布団が一組だけ敷いてあるのを改めて眺めると、凄く贅沢な気分になる。大きな窓のカーテン越しに朝の光が部屋の中に射し込んでいる。浴衣の襟のあたりを掻きながらそちらにぼうっと目をやる。それから自分の身体の様子を確かめたが、特に異常はないようだ。あの謎の薬が効いたのだろうか。部屋を出て師匠を探すと、一階の玄関ロビーでOL四人組...
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【師匠シリーズ】未 本編2

401:未 本編2◆oJUBn2VTGE:2012/01/07(土)22:17:16.64ID:HrRb/QUY0『とかの』に帰り着いたとき、腕時計を見ると午後四時半を回っていた。旅館の玄関から中へ向かって楓が「ただいま」と声を張り上げる。少しして女将がフロントの奥から姿を表した。「どうでしたか」「いやあ、期待はずれですね」師匠は明るくそう言って、山の上からの景色についてしばらく女将と語り合っていた。僕は地滑りの跡で見つけた石についてどうして黙っているのだろうと疑問に思った。その師匠の横顔がスッとこちらに向き直る。「おい、次を見に行くぞ」「え」まだどこか行くんですか。師匠は女将にこのあたりの道...
師匠シリーズ

【師匠シリーズ】未 本編1

336:未 本編1◆oJUBn2VTGE:2012/01/02(月)22:15:41.13ID:93PkLSJW0師匠から聞いた話だ。大学一回生の冬。僕は北へ向かう電車に乗っていた。十二月二十四日。クリスマスイブのことだ。零細興信所である小川調査事務所に持ち込まれた奇妙な依頼を引き受けるために、バイトの加奈子さんとその助手の僕という、つましい身分の二人で、いつになく遠出をすることになったのだ。市内から出発するころにはかなり込んでいた車内も、大きな駅を通り過ぎるたびに少しずつ人が減ってきた。はじめはゴトゴトと揺れる電車の二人掛けの席に並んで腰掛け、荷物をそれぞれ膝に抱えていたのだが、閑散としてき...
師匠シリーズ

【師匠シリーズ】食べる

759:ウニ ◆oJUBn2VTGE:2011/08/21(日)00:17:47.93ID:i1MYcoGY0ウニです。次のお話は2010年の夏コミで同人誌に寄稿したものです。すでに前から売り切れていたことと、1年が経過したことから、ネット上でも発表することにしました。なお、先に某所に投稿していますが、2chでは1行の長さ規制のために不本意なところで改行をする羽目になったり、場面転換的なシーンがレス間に被ると、1行あけているのかそれとも繋がっているのか分かりにくかったりといった不都合が多々あるため、未編集のものをそちらに載せる形をとっています。760:食べる ◆oJUBn2VTGE:2011/...
師匠シリーズ

【師匠シリーズ】未

88:どうも◆oJUBn2VTGE:2010/12/25(土)23:47:39ID:ANcoT4Xq0ウニです。こんばんわ。これから書く話は、とある事情でタイトルは最後に出てきます。しかし、まだ最後まで完成しておらず、続きは年明けになります。なんとか1月中には終わらせたいですが、どうなることか・・・ずるずると先延ばしにしていた話なので、とりあえず見切り発車すればいやがおうにも書かざるを得なくなるのでは、という甘い考えです。では。89:未◆oJUBn2VTGE:2010/12/25(土)23:50:33ID:ANcoT4Xq0師匠から聞いた話だ。匂いの記憶というものは不思議なものだ。すっかり忘れ...
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【師匠シリーズ】花

221:花 ◆oJUBn2VTGE:2011/06/25(土)23:09:26.24ID:JgZLuGov0大学二回生の春だった。その日は土曜の朝から友人の家に集まり、学生らしく麻雀を打っていた。最初は調子の良かった俺も、ノーマークだった男に国士無双の直撃を受けたあたりから雲行きが怪しくなり、半チャンを重ねるたびにズブズブと沈んでいった。結局ほぼ一人負けの状態で、ギブアップ宣言をした時には夜の十二時を回っていた。「お疲れ」と、みんな疲れ切った表情でそれぞれの帰路へ散っていく。俺も自転車に跨って、民家の明かりもまばらな寂しい通りを力なく進んでいった。季節柄、虫の音もほとんど聞こえない。その友人宅...
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【師匠シリーズ】目覚め

952:目覚め ◆oJUBn2VTGE:2010/12/17(金)23:26:24ID:1sx/PKqt0大学一回生の冬だった。そのころアパートで一人暮らしをしていた俺は、寝る時に豆電球だけを点けるようにしていた。実家にいたころは豆電球も点けないことが多かったが、アパートでは一つだけあるベランダに面した窓に厚手のカーテンをしていて、夜はいつもそれを隙間なく締め切っていた。だから豆電球も消していると、夜中目が覚めた時に完全に真っ暗闇になってしまい、電球の紐を探すのも手探りで、心細い思いをすることになるのだ。それが嫌だったのだろう。ある夜いつものように明かりを落とし、豆電球だけにしてベッドに倒れ込...
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【師匠シリーズ】土の下

732:土の下 ◆oJUBn2VTGE:2010/09/26(日)21:20:36ID:Lt8tjlVs0師匠から聞いた話だ。大学一回生の春。僕は思いもよらないアウトドアな日々を送っていた。それは僕を連れ回した人が、家でじっとしてられないたちだったからに他ならない。中でも特に山にはよく入った。うんざりするほど入った。僕がオカルトに関して師匠と慕ったその人は、なにが楽しいのか行き当たりばったりに山に分け入っては、獣道に埋もれた古い墓を見つけ、手を合わせる、ということをライフワークにしていた。「千仏供養」と本人は称していたが、初めて聞いた時には言葉の響きからなんだかそわそわしてしまったことを覚えて...