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【洒落怖】交換だから

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8: 名無しさん@おーぷん: 2015/02/10(火)22:11:31 ID:SMF
冬の初めくらいだったと思う。女子のリーダー的存在のBが話しかけてきた。
転校してきた当初は知らなかったが、Bの父親はPTA会長をしており、Bの家はこの辺の集落の農家を取り仕切るような(昔の庄屋のような)家らしい。
B自身はとてもかわいらしい女の子だった。みんなからの人望もあったと思う。クラスの女子達はBを中心にグループを作っていた。
Bは、私が机の上に広げたシールを見て「このシールかわいい~」と言ってきた。Aからもらったシールだった。私は何も考えずに「Aからもらった」とBに伝えた。

そのときのBの表情は、何と例えたらいいのか分からない。一瞬顔が引きつったように見えたのは気のせいだったのだろうか。
Bは「ふ~ん、Aからねぇ…」と言いつつ、私の隣の席のBを足元から頭までじっくりと見つめた。と思うと、Bの持っていた筆箱を取り上げた。
Bの筆箱は、春には去年家庭科で作ったというフェルト製のものだったが、今のはアニメのキャラクターが描かれた7か所入れる所がある最新のものだった。
「これ、ちょうだい!!」Bはそう言いながら自分のグループの子たちの方に走っていった。私は慌ててBを止めようとしたが、とっさのことで「ちょ…な!?」くらいしか言えなかった。

私はAの方を見て「先生に言わなきゃ!!」と叫んだ。Aは、Bの方をぼうっと見ているだけだった。しっかりしろと、私が思わずAの肩を掴んで揺さぶろうとしたとき、Aはぼそっと「いいの…」とつぶやいた。
「はあ!?」と思わずAに言うと、Aは、細い目をさらに細めて「そのかわり×××(聞き取れなかった)をもらうから…」と言った。
私はまた「はあ!?」と言ったとき、チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。私はとりあえず席に戻ったが、授業が終わったらこのことを先生に密告する気まんまんだった。

だが授業中、Bが突然倒れた。ひゅーひゅーという音が聞こえるなと思った次の瞬間、Bは机ごと床に投げ出されそのままけいれんをおこした。
騒然とする教室内、慌てて救急車を呼ぶ先生、Bを中心にできる人垣。何もかもスローモーションのように感じた。私は自分の席で起立したまま動けなかった。ふと、Aを見るとAは座ったまま運ばれていくBをじっと見ていただけだった。
Bはそのまま救急車で運ばれ、担任はそれに付き添っていった。その日、残りの授業は副担任が行った。

9: 名無しさん@おーぷん: 2015/02/10(火)22:13:40 ID:SMF
放課後、私は担任に呼ばれた。いつの間に病院から戻ってきたのか。Bのことで話があるというのでついていくと、校長室に入るように言われた。
校長室に入るのは初めてで、緊張しつつ入室した。校長先生の机が部屋の奥にあり、手前に応接セットが置いてある。
そこに座っていたのは、Bの両親と教頭と校長、担任は入口付近に立った。偉い先生方が並んでいるのを見て子供心にもただ事ではないと思った。

真っ先に口を開いたのはB母だった。「なんでこの子は無事なの!?Bは○○ちゃん(私)は大丈夫だったって言ってたのに!」急に叫んだかと思うと、私に飛びかからんばかりの勢いで中腰になった。
B父はB母の肩を抑さえ、B母に席に座るように促した。
びっくりたまま状況についていけない私は、直立不動で動けなかった。今度は校長が優しく話しかけてきた。「ねえ、○○さん。Aさんからなにかもらった?」
校長の声は優しかったがうわずっていた。とても緊張しているようだった。
私はかすれた声で「…シールもらった…」と答えるのが精いっぱいだった。その瞬間、大人たちのはっと息をのむような声が聞こえた。
「なんで…」「この子は…」「Aから…」「なんで無事で…」そんな声を誰ともなくつぶやいていた。
ようやく頭が状況を整理しようと動き出した私は、例のAの呪いの件を思い出した。多分大人たちはAの呪いでBがあんな風になったと考えているんだろう。

そう考えると全てに納得がいった。と同時にムカついてきた。いい大人が何人もいて何を言っているんだ!と。
そして、叫んでしまった。「私はAとシールを交換しただけだもん!Bみたいに筆箱取ったりしてないもん!」
その瞬間、大人たちは一斉に私を見た。「交換…だから…」B母がつぶやいた。それにかぶせるように「お前はそれをBに言わなかったんかああ!!」とB父が叫び、私に掴みかかってきた。
B父を羽交い絞めにする校長と教頭、泣き叫ぶB母、もういっぱいいっぱいだった。

その時、制服姿の父が校長室に入って来た。多分いつの間にかいなくなっていた担任に呼ばれたのだと思う。
大人たちはとたんに静まり返った。「この子は…駐在さんとこの子か。」そうつぶやいてB父は舌打ちをした。
私は父と共に校長室を出た。私は茫然自失のまま家についた。家に入ると母は狼狽えていたが、何が起きたのか分からないのでどうしようもなく、何かできることもなかった。
父は私を家に送り届けると小学校に戻り、B父と話した。が、B父が一方的に怒っているのは分かるが、なぜ怒っているのかは詳しくは語らない様子で父にとっても腑に落ちない様子で帰ってきた。

両親は「何が起きたのかは分からないが、集落の有力者であるB父が怒りにまかせて私に何をするか分からないから引っ越す」ことを決めた。
ちょうど私も来年から中学生だし、いつまでも転校続きでは落ち着かないだろうというのが建前だった。
県の端から端の距離に父実家があり、土地も空いているから家を建てようということがその日のうちに決まった。
私と母はすぐに父方の祖父母の家に引っ越すことが急遽決まった。父は、とりあえず集落から離れた所にマンションを借り、駐在所に通うということだった。

でも、もし来年もここに残るようになったら(転勤がなかったら)どうするの?と聞くと、父は「こういうことがあったらすぐ人事移動があるんだ」と言い、実際に季節外れの年末の人事異動で、父は転勤になった。


10: 名無しさん@おーぷん: 2015/02/10(火)22:14:51 ID:SMF
私はBが倒れた日から集落の小学校には通わず、引っ越しの準備をしていた。納得できたわけではなかったが、こうする以外ないのだということは分かっていた。
ただ、その前にどうしても確かめたいことがあった。そこで私は家を抜け出し、Aの家に向かった。
平日の昼間、普通の大人なら仕事中でB父に見つかることもないだろうと思った。以前Aと一緒に上った山道を進んでいくと、途中の棚田で農作業をしているおじいさんに話しかけられた。

「お~い、なにしとんだ~」私は、人のよさそうなおじいさんであることもあって答えた。「この山の上にある友達の家に行くの~」
それを聞いたおじいさんは、農作業を中断して私に近づいてきた。「この山の中に人なんか住んでね~ぞ。お前さんどこ行くんだ。」
そんな馬鹿なと思った私は「そんなことないよ、Aちゃんっていう子。家は小屋みたいだけど何回も行ったもん。」と言った。その瞬間、おじいさんの顔色が変わった。

「おまえさん…は、駐在さんとこの子か。昼間っから子どもがいておかしいと思ったんよ。駐在さんとBさんとで話はついたようだけど、Bさんに見つかったら何されるかわからんで。
わしらもいくらなんでも小さい子を手にかけるのはいかんって、Bさん説得するのがやっとだったかんよ。駐在さんにはお世話になったしな。
おまえさんはこの集落からいなくなることで話がすんでんだ。さっさと帰んな。」
おじいさんからいきなり物騒なことを言われてびっくりしたが、おじいさんは私の状況を私以上に分かっていると思った。聞くならこの人以外いない。「Aちゃんは無事なの?」
「Aか、Bはあいつには手を出せんよ。絶対に。」おじいさんは何か確信を持っているように見えた。私は少しほっとした。
「Bちゃんは…?」そう聞くと、おじいさんはBの家の方向を向いて言った。「生きてはいる。」「生きてはいる…ってどういうこと?」私がもう一度聞くと、おじいさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「おまえさんはもう関わっちゃいかん。今回はたまたま運が良かっただけなんだから、そのことを忘れちゃいかん。」
そう言い、私をまわれ右させると背中を押してもと来た道を引き返すように背中を押してきた。私は慌てて「BちゃんはAちゃんに関わったら呪われるって言ってよ!そういうことなの!?」と聞いた。
おじいさんは「呪い?」とつぶやくと「誰がそんなこと言ったんか?」と聞いてきた。
「BちゃんがBちゃんのお父さんから聞いたって言ってた…。」私が答えるとおじいさんはため息をついて言った。「若いもんのとこじゃそういうことになっとるんか…。違う、元々はそういうもんじゃないんじゃ。あれは…」
おじいさんは途中まで言い口を閉ざした。何かを考えているように見えたが何も言ってはくれなかった。そのうち「さっさと帰んなさい。本当はおまえさんと話してるんを見られただけでもわしも危ないんじゃから。」と言った。
おじいさんが本気で私を心配してくれているのは分かったし、おじいさんに迷惑をかけるのも悪いと思い私は家に帰ることにした。

11: 名無しさん@おーぷん: 2015/02/10(火)22:16:47 ID:SMF
山道を下りていると、脇の獣道からAが出てきた。「Aちゃん!」私はAに駆け寄った。
「Aちゃん!無事で良かった。大丈夫なの?私は引っ越すことになったよ!どうなってるのか全然わかんないけど…」
矢継ぎ早にAに話しかけた私は、Aの様子がおかしいことに気付いた。ずっと、自分の足元をみたままこちらを見ない。
「Aちゃん、どうしたの?」私がAの肩に手を置こうとしたとき、「……ない……」Aがつぶやいた。
「…え?」聞き返すと、Aはすっと顔をあげ、ぐいっと顔を近づけると「○○(私)ちゃんは××××(聞き取れなかった)だから、もうとれない。」とささやいた。
いつも周りが見えているのかどうかわからないくらい細いAの目がわずかに開いていた。

そこが黒く塗りつぶされているように見えたのは、沈みかけた太陽の光の加減のせいだったのか。にやりと笑ったAは、私の知っているAとは違う何かのようだった。
あっけにとられる私の横をAは通り過ぎ、山道を駆け上って行った。Aと会ったのは、それが最後だった。翌日、私と母は祖父母の家に引っ越した。

以来、あの集落には近づいていない。家の中でもあの件はタブーになっている。楽しい家族の思い出話はいつもあの集落以外の話だ。
祖父母の家は割と大きな町の中にあったし、田舎以外の暮らしに慣れるのに一生懸命で、いつしかあの集落の事は記憶から薄れていった。

ふと思い出したのは、押し入れの中にあった小学校のノートの中からAからもらったシールが出てきたから。考えてみるとおかしなことはたくさんあった。
山の中の小さな家にいつも一人でいたA、いつのまにかたくさんあったおもちゃ、そういえばAの両親は見たことも聞いたもなかった。
どんどん身綺麗になっていたA、なぜAからもらったらいけなかったのか、あの大人たちの態度はどういうことだったのか、Bはどうなったのか。
考えても答えの出ないときはいつも、引っ越すときに言っていた父の言葉を思い出す。「世の中には、どうしようもないことがたくさんある」と。
以上です。

著:雨穴
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