243 :長文スミマセン7/8:03/02/14 17:26
そこから先の記憶は酷く曖昧だ。
病院や警察関係者、妻の両親、いろんな人が目の前に現れたけれど、
何を話しかけられ、何を話したのか、全くといっていいほど憶えていない。
気がつくと夜で、私は自宅の寝室で3人分の布団を敷き、自分の場所に横たわって、
妻と子供の居ない布団をボンヤリと眺めていた。不思議に涙は出なかったと思う。
天井を見ると影があった。だが、そんなことはどうでも良かった。
振り向けば鎧武者や老婆もいるのだろう。
それがどうした、というような気持ちだった。恐怖など感じなかった。
また、空の布団のほうを見た。
妻の布団にあの老婆が座っていた。
その時、初めて感情がこみ上げてきた。物凄い怒りと悲しみだった。
何でお前がそこに居るんだ、と。
そこに居て良いのは妻と子供だけだ、と。
ここに居て欲しいのは家族だけなんだ、と。
妻や子供、母親と父親、いたかどうかもわからない姉。
私は叫んだのかもしれないし、暴れたのかもしれないけれど、
朝が来ると部屋はそのままで、足下には3組の布団が整然と並んでいた。
244 :ラストです8/8:03/02/14 17:27
あれから10年以上の時が過ぎた。
私は相変わらず長距離ドライバーをしながら、全国を転々としている。
今年で36になるが、未だに独身だし、結婚するつもりもない。
死ぬまでこの暮らしを続けようと思う。
相変わらず心霊現象には否定的だ。
あの時の事も偶然と幻覚の所産だと、そう思いこんでいる。
死後の世界や怨念なんか信じていない、信じたくもない。
死にさえすれば、意識や感情、思い出も何もかもが無くなるのなら、こんな楽なことはない。
けれど、もし、本当に死後の世界があって、私が幽霊になったなら、
あの世で私の家族を奪った霊を見つけだし、ぶん殴るつもりだ。