スポンサーリンク

【長編洒落怖】渦人形

スポンサーリンク

278:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)21:25:44.15ID:x83Y3WRH0
「それ」の棒の先にある頭だけが、カクンッという感じでこっちを向いた。
俺達は顔をはっきりと見た。
「それ」はおかっぱ頭で、笑顔の人形だった。ただし、ただの人形ではない。
顔は人形特有の真っ白な肌なのだが、笑顔のはずの目は中身が真っ黒で、目玉らしきものが見えない。
口も同じで、唇らしきものもなく、そこにはやはりぽっかりと真っ暗な、三日月状の穴のようなものがある。
それでも、目や口の曲線で、「にっこり」と言う感じの笑顔だと分かるのが余計に不気味だった。
親父が、
「だからお前ら何やってるんだ?」
と、窓のところに来てカーテンを全開にすると、それはサッ!と屋根の影に隠れて見えなくなった。
が、親父にも一瞬、何かがそこにいたのは分かったらしい。
親父は大慌てで1階に降りると、携帯でどこかに電話をし始めた。
どうやら、昼間祈祷をしてくれたおぼうさんや、おじさん達の連絡先を聞いていたらしく、そこと顧問の先生のところに電話しているらしい。
その後、影に隠れたきり、「それ」は二度と姿を現さなかった。

279:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)21:26:15.67ID:x83Y3WRH0
朝になり、昨日のおじさんたちや顧問の先生などが俺の家に来た。
とりあえず異常事態ということで、全員を合宿所近くにあるお寺まで連れて行くという。
みんなの親たちも俺の家に来たのだが、おじさんが
「被害が更に拡大するといけないから、親御さんは来ないほうがいい」
と言うことで、行くのは俺達だけになった。
俺達は着の身着のまま車に乗せられ出発した。
昼前にお寺に到着した。
お寺に入ると、ジャージ姿でゲッソリとした感じのE介が、俺達を出迎えた。
E介によると、あれから色々あったが、なんとか今のところは助かっているらしい。
本堂に入ると、お坊さんと昨日のおじさんが、昨晩の出来事を詳しく教えてほしいと言ってきた。
俺達が順番に状況を話していると、人形の姿の説明のところで、おじさんが
「ちょと待った、人形?首が長い?何の話をしているんだ?」
と驚いた顔で言ってきた。
そして、俺達が昨日みた人形の姿を改めて説明すると、お坊さんと、
「いや、これはひょうせじゃないぞ、どうなってるんだ?」

「おかしいとおもったんだ。色々辻褄が合わない」
と、2人で話し合い始めた。

282:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:02:49.91ID:x83Y3WRH0
そして暫らく話し合った後、俺達に状況を説明してくれた。
結論から言えば、「ひょうせ」に憑りつかれていたというのは全くの勘違いで、どうも俺達に付き纏っているものの正体は、全く別の何からしい。
俺は、今更それはねーだろ……と思った。
おじさんが続けた。
最初状況を聞いたとき、・子供のような姿
・笑い声
・生徒がおかしくなって笑いながら泣いている
・村の近く
と言う状況から、「ひょうせ」だと思ったらしいが、どうも今詳しく話を聞いてみると、「ひょうせ」のしわざと症状は似ているが、姿形が、まるで伝承や過去の目撃証言と違うらしい。
そもそも「ひょうせ」というのは、子供くらいの姿をした毛むくじゃらの猿のような姿で、服も着ていないしおかっぱ頭でもないし、当然、首ものびたりもしないようだ。
笑い声も、俺達の聞いたようようの無い機械的なものではなく、笑い声といっても、猿の鳴き声に近いとの事だった。

283:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:03:27.31ID:x83Y3WRH0
俺達は途方にくれてしまった。
ぶっちゃけ、この寺に来れば全部解決すると思い込んでいたのに、今更
「なんだかわからない」
では、どうしたらいいのか……
室内が重苦しい雰囲気になり、皆しばらく沈黙していると、お坊さんがこう言ってきた。
「とりあえず、何か良くないものがいるのは間違いない。
少し離れたところに、こういう事に詳しい住職がいるので、その人を応援に呼んでくる。
暫らく皆、座敷でまっていてほしい」
そういうと、車に乗りどこかへ行ってしまった。
俺達は座敷に通され呆然としていた。
おじさんはしきりにどこかへ電話をし、かなりもめているように見えた。
夕方になり、お坊さんが別のお坊さんを連れて戻ってきた。
お坊さんが戻ってくると同時に、さっきのおじさんが携帯を片手に
「えらい事になった!」
と、お坊さんのところに走り寄って来た。
話を聞いていると、どうも村の子供が1人、E介と同じ症状でいるところを発見されたらしく、これからこっちへつれてくるという。
この寺のお坊さんが俺達に、
「とりあえず後で話をするから、ひとまず君たちはさっきの座敷で待っていてくれ」
というと、大慌てで2人で本堂のほうへと歩いていった。


284:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:03:57.88ID:x83Y3WRH0
それから15分ほどすると、ワゴン車がやってきた。
車の中からは、E介のときと同じように、けたたましい笑い声がする。
車の扉が開き、中から数人の大人と、笑い声を上げる以外身動き一つしない中学生くらいの子供が運び出され、本堂へと連れて行かれた。
暫く本堂の中から、
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
という、笑い声とお経を読む音が聞こえていたが、それも10分くらいで収まり静かになった。
それから更に15分ほどすると、お坊さん2人が俺達のいる座敷に入ってきて、色々と説明し始めた。
さっきの子供のほうは消耗が激しいので、本堂に布団を敷いてそのまま寝かせているらしい。
応援でやって来たお坊さんによると、どうも話を聞いた感じやさっきの子供の様子から見て、幽霊や妖怪のようなものが原因ではなく、何かしらの呪物が原因ではないかという。
特に根拠があるわけではないけれど、感覚的にそう感じるらしい。

285:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:04:37.89ID:x83Y3WRH0
そして、呪物の類だとすると、と前置きし、恐らく、祈祷で呪物と君たちの縁を切ってしまえば、なんとかなるのではないかと。
そして、できればその人形も供養してしまいたい、とのことだった。
とりあえずそういう話でまとまったという事で、俺達もそれで解決できるなら早くしてほしいと、話がまとまた。
と、その前に、俺はずっと我慢していたのだがトイレに行きたくなった。
事情を話し、
「でも一人じゃなぁ……」
と思っていると、他のやつも全員我慢していたらしく、結局6人で連れションすることになった。
トイレからの帰り道、本堂へ続く廊下を歩いていると、どこからか
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
という、例の抑揚の無い声が聞こえてきた。
場所は分からないが、あれがすぐ近くにいるようだ……
C広が
「近くにいるよな……」
というと、A也が
「かなり近いぞ、やばくね?」
と返した。
たしかにかなり近い。でも姿は見えない。
すると最後尾にいたE介とD幸が、
「やばい、早く本堂に逃げろ!」
と、窓の上のほうを指差しながら叫んだ。

286:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:06:20.82ID:x83Y3WRH0
俺達が指差した方向へ振り向くと、それはいた……
前と同じように屋根から頭だけを突き出し、
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
と笑いながら、例の真っ黒な目と口の顔をこちらに向けながら、ニコニコと笑っている。
俺たちは全力で逃げ出した。
本堂に着くと、お坊さん2人とさっきのおじさんが待っていた。
今になって気付いたのだが、おじさんはどうもこの村の村長さんらしい。
俺達が事情を話すと、お坊さん達はすぐさま俺達を座らせ、お経を読み始めた。
暫らくお経を読んでいると、本堂の天井のほうから、
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
という例の笑い声と、コツ……コツ……という、俺の部屋で聞いたあの音が聞こえてきた。
俺達はビビりまくって身を寄せ合っていた。
暫らくすると声が聞こえなくなった。
俺が
「終ったか?」
と言い切らないうちに、今度は本堂の横の庭のほうから、
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
という声が聞こえ始めた。

287:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:07:05.17ID:x83Y3WRH0
そして、薄暗くなり始めた本堂の障子に、夕日に照らされたあの人形のあたまが映し出された。
あたまはユラユラ揺れながら、相変わらずあんぽ不気味な笑い声で笑っている。
その時、俺は恐怖心と不安感と連日の寝不足で、もう耐えられなくなって、ちょっとおかしくなっていたんだとおもう。
人形の影を見て、恐怖心よりもその姿にイラつきはじめた。
ユラユラ揺れている姿を見ると、とにかくなんだか良く分からないがムカついてきて、とうとう我慢できなくなった。
俺はお坊さん達がお経を読んでいる横の鉄の燭台を掴むと、蝋燭もささったまま引き抜き、周りが制止するのも振りきり障子を開けた。
目の前にあの人形の顔があった。
一瞬俺は恐怖心に襲われたが、怒りとイラつきが勝って、そのまま燭台をぶら下がっている人形の頭めがけ、
「ふざけんなーーーーーーーーーー!」
と叫びながら振り下ろした。

289:本当にあった怖い名無し:2011/05/20(金)22:08:42.37ID:x83Y3WRH0
バキッ!という音がして、燭台の先端が人形の顔にめり込み、そのまま人形は地面に落下した。
俺は裸足のまま庭に下りると、更に燭台を振りかぶり人形に打ち下ろした。
すると、なにか頭の中に妙な感覚が芽生え始めた。
人形はそれでもなお、
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
と無機質に笑っている。
俺はおかしくも無いのに笑いたくなり、なきたくも無いのに目からボロボロと涙が零れ落ちてくる。
明らかにE介たちと同じ状況になりつつあるのだが、それでも俺は燭台を振りかぶり、人形に打ち下ろすのをやめなかった。
あとから話を聞くと、俺はゲラゲラと笑いながら、無表情でボロボロと涙を流していたらしい。
暫らくそんな状態が続いていると、どうも燭台に残っていた蝋燭の火が人形の服に燃え移ったらしく、人形が煙を上げて燃え始めた。
友人たちによると、人形の
「ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
という笑い声と、俺の絶叫が交じり合い、薄暗くなり始めた周囲の雰囲気とあわさって、異様な状況だったという。

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました