スポンサーリンク

【師匠シリーズ】本

スポンサーリンク

881 :本  ◆oJUBn2VTGE:2013/08/24(土) 00:35:35.67 ID:oCTAATKm0
王は留まり、王は離れる。
自分の名前を紹介する時に、いつも好んでこの言葉を使っていた。もちろん本名ではない。自分でつけた名前だ。
それは本来彼女の顔のある部位を端的に表す言葉だったが、ここに奇妙な符合が生まれていた。
I stay here, I leave here.
キングを自分に変えることで、生まれついて彼女に起こっているその不思議な現象を表す言葉になるのだ。それも、ニューヨークへ帰った彼女を表す時にはその言葉が逆転する。
面白いな。
俺は人間を取り巻く、目に見えない偶然というものや、運命というものを改めて感じた。
「今度会ったら、目を傷めないように気をつけろって言っておいてくれ」
「なにそれ。カラコンのこと? 瑠璃ちゃん、もうしてないよ」
音響が不思議そうにそう言う。
「いや、いい」
俺は、見えざる悪意の主要な標的となった四人の、ある共通点のことを考えていた。四人のうちの三人。それが偶然なのか、そうでないのか、すべてが終わった今でも分からないのだった。
カレーを食べ終わったころ、腰を浮かしかけた俺に音響が言う。
「じゃあ、春からよろしくね、師匠」
相変わらず上から下まで黒尽くめの格好でそんなことを言うのだ。腹の内を読み取れない表情で。
俺は一瞬、自分が別の人間になったような錯覚に陥り、うろたえた。
うろたえながらも、なんとか言い返したのだった。
「受かってから言え」
師匠だと? この俺が。
これまでただイタズラのようにそう呼ばれていたのとは違う、ぞわぞわする感覚があった。
これについては断じて運命ではない。と、思う。
しいて言えば……
しいて言えば、そう。
やっぱり、no fate ということになるんだろう。
(完)

楽天ブックス
¥748 (2022/11/14 22:33時点 | 楽天市場調べ)
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました